矮小銀河は天の川銀河の材料にあらず

【2006年11月16日 ESO Press Releases

現代の宇宙論によれば、最初に小さな銀河が誕生し、合体することで大きな銀河が形成された。われわれの天の川銀河もそうした銀河の1つで、今も小さな銀河を飲み込んでいると考えられていた。ところが、両者の組成には決定的な違いがあることがわかってきた。そうだとすれば天の川銀河は合体で形成された銀河ではないし、現在知られている宇宙の歴史にも疑問が投げかけられる。


(NGC 908の画像)

4つの矮小楕円銀河について、恒星に含まれる鉄の量を調べてその分布をとったグラフ。横軸が鉄の量(対数)、縦軸が銀河の恒星全体に占める割合。銀河によってばらつきがあるが、鉄をほとんど含まないような恒星は、どの銀河においても極端に少ない。クリックで拡大(提供:ESO

天の川銀河の近傍には、いくつもの矮小楕円銀河(解説参照)が存在する。宇宙で最初に誕生したのは、天の川銀河のように大きな銀河ではなく、こうした小さな銀河ではないかと考えられている。そして、小さな銀河の合体によって大きな銀河が形成されたのだろう、という見方が有力だ。もちろん、天の川銀河も例外ではなく、いくつもの矮小楕円銀河の集合体だと思われていた。

欧米や日本など9か国の研究者からなる矮小銀河の研究チームDARTは、超大型望遠鏡VLTで天の川銀河周辺の矮小楕円銀河を観測して、この理論を検証した。

宇宙が誕生したばかりのころは、元素といえば水素とヘリウムしか存在しなかった。それ以外の元素は、ほとんどが恒星の核融合によって形成された。従って、矮小楕円銀河が宇宙で最初に誕生したタイプの銀河であるとすれば、水素やヘリウム以外の元素の存在比が少ないはずだ。研究チームは、4つの矮小楕円銀河に含まれる2000の恒星を観測し、核融合で生成される典型的な元素である鉄を豊富に含む恒星や、ほとんど含まない恒星の割合を調べた。

4つの矮小楕円銀河では恒星の分布のしかたが異なる。しかし、鉄をほとんど含まないような恒星が極端に少ないという点では一致していた。これは重大な事実だ。なぜなら、天の川銀河のハロー(外縁部)には、現在も水素とヘリウム以外の元素をほとんど含まない恒星が存在しているからだ。天の川銀河が矮小楕円銀河の合体で形成されたのだとすれば、そのような恒星はハローにないはずである。

DARTチームの一員でオランダ・カプタイン天文研究所のAmina Helmi氏はこう語る。

「天の川銀河のハローが形成される過程では、近傍の矮小銀河が融合するなどということは、宇宙の歴史をどんなにさかのぼってもなかった、というのが私たちの観測から導き出される結論です。これらの矮小楕円銀河の化学組成についてもっと調べれば、宇宙が初期のころに天の川銀河の近くで何が起きていたのかを知ることができるはずです。」

矮小楕円銀河

数十万から数百万個の恒星を含んでいる小型の楕円銀河のこと。通常の銀河に比べ恒星数が少なく、光度も暗い。(「最新デジタル宇宙大百科」より)