地球への脅威について知る手がかり、地球近傍「連小惑星」の克明な画像
【2006年11月27日 Cornell University News】
アレシボ天文台の電波望遠鏡を使った連星の小惑星1999 KW4(66391)の観測によって、連星を成す地球近傍小惑星(NEA)の姿が初めて明らかとなった。観測結果からは、このような連星系の成り立ちや特性などを知るための重要な情報が得られている。
1999 KW4(66391)が発見されたのは1999年、その後2001年5月には、地球まで約480万キロメートルの距離に接近した。この際、初めて連星であることが明らかとなった。連星であるということは、2つの小惑星が互いに及ぼす影響を調べることで、質量や密度などを明らかすることができ、惑星科学者にとって地球近傍小惑星(NEA)の形成や進化を研究する上での貴重な情報源となる。地上から単独の小惑星を観測しても、このような情報を得ることは不可能だからだ。
また、地球にごく近くまで接近する天体からの脅威を軽減するための研究にも利用されている。もっとも、1999 KW4の次の地球への接近は2036年ではあるが、この小惑星による直接の地球への影響は、少なくともここ1千年以内にはないことがわかっている。
コーネル大学のJean-Luc Margot助教授とNASAジェット推進研究所(JPL)の上級研究科学者であるSteve Ostro氏の両氏は、NASAのゴールドストーンディープスペースネットワークと電波望遠鏡として世界で唯一の能力を備えたアレシボ天文台の電波望遠鏡を利用して1999 KW4の観測を行った。1999 KW4の観測から得られた高解像度画像やデータから、連星を成す2つの天体アルファとベータについて、形や質量、密度、軌道が明らかとなった。直径1.5キロメートルのアルファに比べて、パートナーのベータは小さく、密度が大きく、形も奇妙で、その動きは、連星系を保てる最速の速度で、著しくふらつきながら回転している。
一方、アルファについては、極を真上から見た場合には円いが、真横から見た姿は、つぶれていて、ダイヤ型をしている。そして、赤道部分には、周囲を取り囲むようにはっきりと隆起した縁が存在している。これは、アルファの表面の粒子が赤道に向かって引きずられたためだ。
また、この連星の特異性ともいえる高速回転についても明らかとなっている。そのスピードは、連星系を保てる限界に近い速度なのだ。このような特徴から、ここには元々単独の天体か、もしくはより大きな小惑星が複数存在していたのではないかという可能性が示されている。
アレシボ天文台の電波望遠鏡による今回の観測結果はいずれも、2つの小惑星がどのようにして形成されたかを知るためのきわめて重要な情報となっている。研究発表者の一人であり、長年にわたり1999 KW4を追い続けてきたMargot氏は「アレシポ天文台の強力な電波望遠鏡による観測がなければ、このような高いレベルのデータを得ることは不可能でした。アレシポ天文台の電波望遠鏡、そしてゴールドストーンディープスペースネットワークも天文界にとって不可欠の施設と言えるものなのです」と話している。
年々増える傾向にある小惑星の数
小惑星帯には小さいサイズの天体が数十万個あるとされている。2006年5月15日までに軌道が確定して登録番号が割り振られている小惑星だけで、12万9436個。2005年5月までに登録番号が振られた小惑星の数は9万9906個だったので、1年間で3割増となった。小惑星の中には、地球軌道付近にまで接近するものも知られている。世界的に地球と衝突する恐れのある小天体をいち早く察知しようと監視体制が強化されているため、発見される小惑星の数が年々増える傾向にある。(「宇宙のなぞ研究室」(Q066 小惑星には太陽系誕生の秘密が隠されている?)より)