秒速4000メートルの風が吹く惑星

【2007年1月16日 UWNEWS

地球上で秒速40mの風といえば、台風の中心付近で吹くような暴風だ。だが、ある系外惑星ではそよ風にさえ感じられないかもしれない。赤外線天文衛星スピッツァーの観測から、そう考える天文学者がいる。


(恒星とその周りを回る巨大ガス惑星の想像図)

恒星とその周りを回る巨大ガス惑星の想像図。惑星の「夜」の面は、「昼」の面と大差ない温度だった。ただしこれは赤道付近での話で、極付近ではより低温だろうと考えられている(提供:NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (SSC))

この研究はアメリカ天文学会の会合で発表された。ワシントン大学などの研究者からなる研究グループが使ったのは、NASAの赤外線天文衛星スピッツァー。赤外線のデータから3つの系外惑星について温度の分布を調べ、今回の結果を得た。

3つの系外惑星はペガスス座51(51 Peg)b(太陽から50光年の距離)、HD 179949b(同100光年)、HD 209458b(同147光年)。51 Peg bは初めて確認された系外惑星として有名だ。すべて「ホット・ジュピター(解説参照」で、恒星から強力な潮汐力を受け、月が地球に対してそうであるように、常に恒星に対して同じ面を向けていると考えられている。

一般に系外惑星はあまりにも恒星に近く、単一の天体として分離し撮像することはほぼ不可能だ。その代わり、研究グループは惑星も含めた恒星系全体の光を分析した。恒星から届く光は常に一定だが、惑星は公転している。恒星系全体の光の変化から、惑星の異なる面ごとの明るさの違いがわかるというわけだ(もちろん、あらかじめ惑星の公転周期と、地球から見て恒星と惑星が決して重なり合わないことが確認されていなければならない)。惑星からの赤外線の放射は温度に対応するので、結果として惑星表面の温度分布がわかる。

しかし、これは決して簡単なことではない。研究チームの一人、ワシントン大学のEric Agol助教授によれば、仮に惑星が恒星の陰に隠れるような状況を観測したとしても、明るさの変化はわずか0.25%だという。観測と計算は慎重に行われたが、大きな変化は見つからなかった。惑星の「昼」と「夜」の面はほとんど同じ温度のようだ。

実は、スピッツァーを使った別の研究では、昼夜の温度差が1400度という系外惑星が見つかっている。それに比べて、今回観測された3つの系外惑星は穏やかな環境と言えるだろうか。もちろん、そんなことはない。温度差はなくても、気温およそ925度と高温であることに変わりない。さらに驚異的なのは、温度が一定に保たれる理由として考えられている、惑星の気象だ。

Agol助教授らは、超音速の風が惑星の大気をかき混ぜ続けていると結論づけた。風は最速で秒速4000m(時速1万4000km)にも達するのではないかとされている。

ちなみに、日本における観測史上の瞬間最大風速1位は1966年9月5日、宮古島での秒速85.3mだ。今回の研究結果が事実だとすれば、これらの惑星で吹いている風は文字通りわれわれの想像を超えている。

ホット・ジュピター

世界で最初に系外惑星を持つ恒星として確認されたのはペガスス座51番星。1995年のことだった。発見された惑星は太陽系で言えば水星の軌道よりも内側を回り、木星ほどの質量を持っているとみられ、太陽系の惑星から考えると常識はずれの惑星だった。以降、相次いで木星サイズの惑星が発見されているが、こうした惑星につけられた名称が「ホット・ジュピター」。恒星に近くて高温になっている木星型惑星という意味だ。

「150のQ&Aで解き明かす 宇宙のなぞ研究室」Q.047 太陽系以外に惑星は見つかっている? より抜粋[実際の紙面をご覧になれます])