南米ペルーの遺跡をめぐる議論に決着
「13の塔」は2300年前の太陽観測所だった
【2007年3月5日 Yale University / University of Leicester】3月6日一部訂正
南米のインカ帝国といえば、太陽への信仰と発達した文明で知られているが、その起源は想像以上に古いかもしれない。ペルーにある「Chankillo遺跡」が、約2300年前の太陽観測所であるとする研究結果が発表された。南北アメリカ大陸で発見された古代観測所としては、最古のものである。
この研究成果は、エール大学の大学院生Ivan Ghezzi氏(人文学)とライチェスター大学のClive Ruggles教授(考古学・古代天文学)が、3月2日発行の雑誌「Science」で発表した。
南米ペルーのChankillo遺跡は、砂漠の中に広がる数平方キロメートルの広場である。遺跡に残された建造物のうちもっとも有名だったのが、立派な城壁と門を持ち、丘の上に建てられた砦(とりで)を思わせる建物だ。一方、一帯からは儀式に使ったとみられる工芸品が出土していて、「砦」なのか「式場」なのか議論が続いていた。とりわけ謎が多かったのが、300メートルにわたって歯のように並ぶ13個の塔の存在である。
ペルーの古代戦争史を研究していたGhezzi氏は、もともとChankillo遺跡を砦として調査していた。だが、2001年に、13の塔が天体の動きと関係あるのでは、と考えたことで大きく視点が変わったようだ。この説は19世紀から指摘されながら、誰も検証していなかったのである。Ghezzi氏が調べはじめてまもなく、証拠が見つかった。
塔の近くに、儀式に使われた形跡のある場所が存在する。ここから日の出の時刻に塔の並びを見ると、一番左の塔が夏至の太陽、一番右の塔が冬至の太陽と重なることがわかった。「日の入り」を観測するための場所も見つかった。ここは古代の太陽観測所だったのである。数年後には、天文考古学の権威であるRuggles教授に裏付けを依頼した。彼は構造物を見るなり、感銘を受けたようだ。
「古代の天文観測所とされる場所を訪れてがっかりするのには慣れっこです。どんな構造物もどこかを向いていて、対象になりそうな天体はたくさんあります。そう考えれば、確かな証拠なんてほとんどありません。しかし、Chankillo遺跡にはきれいに残された13の塔、周囲から際だった2つの観測地点がありました。塔の位置と太陽の出没はきれいに対応していて、この施設が太陽観測のために建設されたことは明白です」
炭素同位体による年代測定から、Chankilloが2300年前の遺跡であることもわかった。ところで、中米に存在したマヤ文明も同様の観測施設を建造していたことがわかっているが、一番古い遺跡が1800年前のものだ。Chankillo遺跡は、北南米両大陸合わせてもっとも古い太陽観測施設ということになる。
ペルー近辺と言えばかつて「インカ帝国」が栄えた地域だ。インカ時代の建物の配置が、日の出や日の入りの方向と密接にかかわっていることはよく知られていた。彼らは太陽を神としてあがめ、帝国を治めたのは「太陽の子孫」を自称する王である。観測所を建てて季節を把握できた者こそが権力も把握できたのだろう、とGhezzi氏らは考える。
インカ帝国がスペインに滅ぼされたのは16世紀のことだが、そのルーツはChankilloが栄えていた紀元前4世紀までたどれるかもしれない。
Ghezzi氏はこうも述べた。「Chankilloが栄えた当時、すでに天文学が発達していたことがわかります。「天文学の起源」はさらに古いはずです」
お詫びと訂正(3月6日)
公開当初、Chankilloが2300年前の遺跡であることについて「エジプトのピラミッドと同じ年代」と表現していました。これは参照先の記事には無い表現で、実際にはピラミッドが建設されたのはさらに古い年代のことです。該当個所を削除するとともに、お詫びいたします。