「あかり」最新成果:恒星の「老いの兆候」をとらえた
【2007年4月5日 宇宙科学研究本部 宇宙ニュース】
赤色巨星は、太陽のような恒星が老齢期を迎えた姿だ。特徴として、文字どおり赤くて膨らんでいることのほかに、物質が表面から宇宙空間へ放出されていることが挙げられる。この「質量放出」は赤色巨星の中でも最末期の星でしか見つかっていなかったが、日本の赤外線天文衛星「あかり」が、赤色巨星になったばかりの恒星からの質量放出を検出した。
この研究はJAXAの研究員・板 由房氏と東京大学の大学院生・松永典之氏が中心となって行ったもので、3月30日に日本天文学会春季年会で発表された。
われわれの太陽は約50億歳で、水素をヘリウムに変える核融合反応を中心部で起こし、安定して輝いている。ところがさらに50億年以上経過すると、ヘリウムがたまった中心部では核融合反応を続けられなくなる。このため以前より外側で核融合反応が起きたり、ヘリウムからさらに重い元素を作る核融合反応が始まったりするのだが、不安定になった星は大きく膨らみ、表面温度が下がることで赤くなる。これが、赤色巨星と呼ばれる星の老年期だ。
赤色巨星が示す性質の一つに「質量放出」がある。膨張したことで自らの外層を重力で引き寄せきれなくなり、ガスやちりを宇宙空間へばらまく現象だ。太陽のような恒星はすべての核融合反応が止まるまでの間に質量の4割を放出するとされている。質量放出を研究することの意義は、恒星の一生について知るだけにとどまらない。恒星が作った元素が拡散していくようすを追うことで、銀河の進化を理解することにもつながるし、太陽系のような惑星系が迎える運命を知ることもできる。
観測は主に、ばらまかれた物質が恒星の輝きで暖められて放射する、赤外線で行われる。理論上、恒星は赤色巨星になるとすぐに質量放出を始めるはずだ。しかしこれまで質量放出が検出されたのは、赤色巨星の中でもとくに最期に近い星だけだった。そんな中で「あかり」が、なりたての赤色巨星からの質量放出を初めてとらえた。
「あかり」が観測したのは、きょしちょう座の方向1.5万光年の距離にある球状星団NGC 104に属する赤色巨星である。NGC 104は南半球で見られる代表的な球状星団で、「きょしちょう座47(47 Tuc)」とも呼ばれる。星団の星が誕生したのは約110億年前と見積もられるが、これは重い恒星がすべて死に絶え、ちょうど太陽と同じくらいの恒星が老年期にさしかかるほどの時間だ。NGC 104の中心から外れた場所にあって、中心付近で輝く最末期の赤色巨星に比べると暗く写っている。
この星を複数の波長の赤外線で観測した結果、赤色巨星の初期段階と最末期とで放出される物質に違いがあることがわかった。また、同じように赤色巨星の初期段階にありながら、質量放出が検出できない星も存在する。なりたての赤色巨星の場合、物質は単純に流れ続けるのではなく、時折吹き出すように放出されるのかもしれない。