すばる望遠鏡、彗星の内部構造を初めて解明
彗星は優秀な冷蔵庫だった

【2007年5月21日 東京大学

NASAの彗星探査機ディープインパクトがテンペル彗星(9P/Tempel)への歴史的な衝突を成功させてから2年近く経つ。しかし、穴を開けはしたものの、意外にも彗星の内側について得られた情報は少ない。すばる望遠鏡の観測結果を解析した国内の研究チームが、初めて彗星の内部構造を解き明かした。


(ディープインパクト衝突時の輝き)

ディープインパクトによる衝突後のテンペル彗星。放出物が広がり、明るすぎて観測の妨げとなってしまった(提供:NASA

(衝突クレーター生成時の放出物の分布)

衝突後の物質の飛び散り方を示した概念図。浅い物質ほど速く飛ぶことから、上の図で扇形の先端部は表面付近の物質に相当することがわかる。クリックで拡大(提供:大阪大学 門野敏彦氏ほか)

(すばる望遠鏡で観測した彗星核からの放出物の分布)

衝突2時間後における放出物の分布。赤外線の性質にもとづき、シリケイトと呼ばれる鉱物の量が示されている(赤が多く、紫が少ない)。グラフの目盛りは、彗星核からの距離。クリックで拡大(提供:大阪大学 門野敏彦氏ほか)

テンペル彗星に350kgの銅のかたまりを衝突させるディープインパクト計画は、彗星の内部を探る絶好のチャンスとして期待されていた。太陽系が46億年前に形成されて以来、惑星などの天体はさまざまな作用を経てきた。その中にあって彗星はほとんど生まれたときのまま、太陽の周りを回っていたとされている。表面は太陽にあぶられて変成していても、内部には46億年前の情報が閉じこめられているはずだ。

衝突によって彗星に閉じこめられていた物質は見事に飛び散り、その様子はあらゆる観測装置ではっきりととらえられた。ところがその放出物が予想外に明るかったおかげで、肝心の内部構造については断片的な情報しか得られていない。衝突によるクレーターを撮影できなかったからだ。

大阪大学、東京大学、国立天文台などからなる研究チームは、放出物にこそ彗星の構造を物語る情報が含まれていると考えた。ハワイ・マウナケア山頂にある国立天文台のすばる望遠鏡は、衝突直後の彗星を赤外線で観測していた。どんな物質がどれだけ遠くへ放出されたかについては、すばるの結果があらゆる観測装置に勝っている。2番目の図に示されているように、物質の飛び散り方は、どの深さに存在していたかによるのだ。

分析の結果、テンペル彗星の表面には、炭素質でひじょうに細かい粒子が多く含まれていることがわかった。こうした粒子は誕生時に彗星を構成していた有機物が直後に宇宙線を浴びて変成したものだが、軽いため、太陽の熱で氷が蒸発するといっしょに吹き飛ばされやすい。太陽に接近して周回していたテンペル彗星だが、太陽光の影響は部分的にとどまっていたことがわかる。

炭素質に変成していた層の深さは数十cm。1cm以上の深さになれば太陽の光や熱による影響は及んでないと見積もれる。研究チームは、ほかの彗星についても1mほど掘り下げれば、きれいに保存された太陽系誕生時の物質が得られるだろうと結論づけている。

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