太陽観測衛星「ひので」の全観測データが世界に向けて公開へ
【2007年5月28日 国立天文台】
順調に観測を続けている太陽観測衛星「ひので」が集めた全観測データが、5月27日よりインターネットで公開された。その中には、今年1月から4月までの観測結果から作成された最新ムービーも含まれており、過去にない精度で太陽コロナの自転や黒点の上空でコロナが発生する様子などを見ることができる。
X線でとらえた太陽には、可視光で見た場合と異なり、さまざまな模様を見ることができる。これは、太陽の大気の温度や高さの違いに原因がある。太陽の大気は、面白いことに、高度が高くなるにしたがって温度が上がる。可視光は太陽表面に近い6000度ほどの大気(光球)から放射されているのに対し、X線は太陽表面から高度3000キロメートル以上の100万度の大気(コロナ)から放射されている。コロナで超高温に過熱された物質は、プラズマと呼ばれる電気を通す気体へと変化する。プラズマは、磁場があると磁場の形を示す磁力線に沿ってしか運動できない性質をもっているために、さまざまな形をとり、複雑な模様となって現れるのだ。
また、太陽コロナは明るさや形により分類されており、もっとも明るい構造は「活動領域」(2枚目の画像中、点線で囲まれている部分)と呼ばれている。活動領域は、その名のとおり、いろいろな現象が活発に起こる領域だ。太陽大気中でとくに磁場が強く、フレアと呼ばれる爆発現象や黒点もこの活動領域で発生する。フレアは、地球で磁気嵐やオーロラを起こす原因の一つであることから、太陽研究の重要な項目の一つとなっている。
一方、X線が弱い場所(1枚目の画像中、点線で囲まれている場所)がある。この場所は「コロナホール」と呼ばれ、高速の太陽風の吹き出し口であると考えられている。そのため、地球への影響を考える上で重要な研究対象となっている。コロナホールは、おもに太陽の北極や南極で多く見られるが、太陽の赤道付近にも現れることがある。コロナホールは、太陽から吹き出るプラズマ流である太陽風の中でも、とくに高速(秒速300キロメートル以上)の太陽風の吹き出し口であると考えられている。この高速の太陽風が地球に向かってくると、磁気嵐を起こす場合があるのだ。
「ひので」のムービーには、活動領域が現れたかと思うと、数時間で急激に成長した様子がとらえられている。最初の画像には、特徴的な構造は何もないのだが、その5時間後(2枚目の画像の2段目)には、輝点や複雑な構造が現れ始め、さらにその7時間後には、明るい構造が現れたことがわかる。図の最下部の左側にある丸は地球の大きさを示しているので、わずか数時間で地球の数倍の構造が現れたことになる。このとき、太陽表面では磁場のN極とS極が現れており、コロナではそのN極とS極をつなぐ磁力線が見えていることになる。よく図をみると、明るい構造が、磁石の周りに砂鉄をまいたときに現れるループの様な模様と同じ模様が現れていることがわかる。
このように、活動領域のような太陽内部から強い磁場が現れるとその領域がX線で明るくなることは、今までの研究でよくわかっている。これは、数百万度のプラズマが数時間で大量に作られたことを意味している。しかし、磁場が強い場所では、なぜ高温のプラズマが作られるのかはわかっていない。「ひので」の目的の一つは、この高温プラズマがどのように作られるかを明らかにすることだ。現在、大量に取得されたデータを吟味し、謎を解明するための研究が進められている。
このほか、X線画像には太陽全体を覆うぼおっとした明るい場所があり、「静穏領域」と呼ばれている。静穏領域やコロナホールの中には、「X線輝点」(3枚目の画像中、破線で囲まれている場所)と呼ばれる点のような構造が無数に見えている。「ひので」より前のX線望遠鏡では、「点」に見えていたが、「ひので」のX線望遠鏡(XRT)の高空間分解能によって、「点」ではなく活動領域と同じようなループのような構造でできていることが明らかとなった。
さらに、静穏領域を拡大したムービーを見てみると、この輝点が時間と共に明るくなったり暗くなって消えてしまったりしていることがわかる。輝点は静穏領域やコロナホールなど活動的な現象が少ないところに出てくると思われていたが、XRTの観測により、この輝点自体が激しい活動を起こしていることが明らかにされつつある。今後は、これまで使われてきた「静穏領域」という言葉の意味が、XRTの観測によって変更される可能性も出てきたというわけだ。
※なお、「ひので」の全観測データは、国立天文台と宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同開発したウェブベースの「ひので」データ検索・配布システム"DARTS/HINODE"にて公開されている。