「ひこ星の顔」を天文学者が撮影
【2007年6月28日 Georgia State University】
わし座のアルタイル、またの名を七夕の「ひこ星」が、望遠鏡を組み合わせた観測装置でズームアップされた。すぐ近くの太陽や、寿命が近くて大きくふくれあがった星を除けば、恒星の姿がここまで詳細に描かれるのは初めてのことである。
七夕物語では、働き者の青年として描かれるひこ星。現実の恒星・アルタイルの姿も、似たようなものと言えるかもしれない。
最大の特徴は、自転が異様に速いことだ。われわれの太陽が25日周期で自転しているのに対して、なんとアルタイルは1日に3回も回っている。恒星はガスのかたまりなので、高速回転するアルタイルは横(赤道方向)に大きく膨らんでいるはずだと予想されていた。
また、アルタイルは恒星として比較的若い。太陽と同じように、主に水素をヘリウムに変換する核融合反応で輝いている。こうした恒星は「主系列星」と呼ばれ、人間で言えば青年期から壮年期。老年期に入った「赤色巨星」とは区別される。赤色巨星ではエネルギー生産と重力のバランスが崩れ、外層が大きくふくれあがっている。
恒星の形や大きさは、基本的には理論から推定されているものだ。太陽以外の恒星はあまりにも遠いため、大きさのある天体として観測するには、口径数百メートルという非現実的なサイズの望遠鏡が必要となる(ちなみに現在最大級の望遠鏡は口径10メートル)。そこで、複数の望遠鏡を使った観測装置(干渉計)がさかんに使われるようになっている。数百メートル離れた2基の望遠鏡で同時に観測を行い、結果を合成すれば、理論上は口径数百メートルの望遠鏡と同じくらいの性能が実現するのだ。
米国の天文学者からなる研究チームは、アルタイルのズームアップに成功したことを発表した。これまでに赤色巨星を干渉計で撮影したケースはあったが、太陽以外の主系列星の姿をとらえたのは今回が初めてだ。使われたのは米・カリフォルニア州ウィルソン山に設置されている光学干渉計「CHARA」。CHARAは6基の1メートル望遠鏡などから構成されており、その能力は直径300メートルの望遠鏡に匹敵する。
アルタイルの形は、確かに理論どおりつぶれていた。一方で、予測をくつがえす結果もでた。恒星が赤道方向に膨らんでいるのなら、中心の熱源から遠いので、赤道周辺は比較的低温になる。そこで、過去にアルタイル表面の温度分布がシミュレートされたことがあるのだが、観測された赤道周辺の温度は、理論モデルよりもさらに低かった。
地球からアルタイルまでの距離は15光年で、恒星としては「ご近所」と呼べる。研究チームは、将来はさらに遠くにある恒星の姿も撮影したいとしている。
ところで、「ひこ星」の姿が見えたとなれば、東洋人として気になるのは「おり姫星」だろう。実は、「おり姫星」すなわちこと座のベガは、次なる目標として名指しされている。ベガも、距離25光年と比較的われわれに近いからである。ちなみに、ベガの自転速度もかなり速いらしい。案外、「ひこ星」とよく似た姿かもしれない。