「スポンジ」からしぼり出された秘密 土星の衛星ハイペリオン
【2007年7月11日 CICLOPS/NASA Mission News】
土星の衛星では8番目に大きいものの、いびつで穴だらけの天体、ハイペリオン。まるでスポンジのような外見は、われわれのイメージとは異なり、クレーターによるものだった。また、二酸化炭素や有機物が表面に「染みついて」いることもわかった。
スポンジの穴は一発であいた
われわれの太陽系には無数の天体があるが、「スポンジのような」と例えられるのは、今のところハイペリオンだけだ。
小惑星や衛星の姿といえば、クレーターだらけの表面が想像されることだろう。一般にクレーターといえば、小天体の衝突で生じた、表面が円形にへこんでいる地形だ。ところが、2005年にハイペリオンへ接近したNASAの土星探査機カッシーニ(解説参照)が写したのは、クレーターというよりも穴だらけの表面だった。
ふつうのクレーターのイメージとあまりにかけ離れているので、研究者たちが最初に思い描いたのはこんなシナリオだ。まず、ほかの天体同様、小天体がハイペリオンに衝突して(ごくありふれた)おわんのようなクレーターを作る。やがて、暗い色の物質がクレーターの底にたまる。ハイペリオンは主に氷でできていて、暗い色はほかよりも太陽熱を吸収しやすいので、クレーターの底だけが溶けて、どんどん深くなっていく。
しかし、そんな複雑で時間のかかるメカニズムを考えなくても、ハイペリオンに小天体が衝突すると、最初から穴のようなクレーターが形成されるらしい。それはハイペリオンの密度が異常に低く、大きさの割りに軽いからだ。これはカッシーニが近づいたときにハイペリオンから受ける重力を調べたことで判明した。
ハイペリオンはすかすかなので、ぶつかった天体はそのまま奥深くめり込む。その上、重力が弱いので、飛び散った物質はクレーターの周囲に積もったりせず、そのまま宇宙空間へ放出される。かくして、単なる「穴」が無数に空いているように見えるというわけだ。
「生命の原材料」が染みついている?
一方、カッシーニの分光器は、ハイペリオンの表面にもう1つ興味深いものをとらえていた。この分光器はさまざまな波長の光をとらえることで、どんな物質が分布しているかなどを調べる装置である。ハイペリオンの主成分は水の氷だが、観測によれば、このほかに二酸化炭素の氷(ドライアイス)も存在するようだ。
二酸化炭素は、太陽光にさらされ続けると蒸発してしまう。だが、ハイペリオンの表面では二酸化炭素が何らかの有機物などと結びついて、安定して存在しているらしい。二酸化炭素などが多く見られるのはクレーターの中で、スポンジのようなハイペリオンに、文字どおり染みついている。
生命は水のほかに、炭素や水素を中心とした化合物で構成されているが、ハイペリオンの表面にもその原材料が見られるというわけだ。もちろん、このことはハイペリオンにおける生命の存在には一切結びつかないが、こうした物質が太陽系の中でごくありふれた存在だということは、いっそう確かになった。
土星探査機カッシーニ
周回軌道から土星とその衛星の探査を行う初の探査機であるカッシーニは、1997年に打ち上げられ、2004年7月から観測を開始した。太陽からの直接光に邪魔されることなく長時間観測することで、新たな環が検出されている。土星の環は衛星と密接なつながりがあるが、新発見の環には、衛星がみつかっていないものもある。未知の衛星が存在する可能性があり、カッシーニによる画像から新たな衛星が検出されるかもしれない。(「スペースガイド宇宙年鑑2007」より)