三重系の小惑星、地球に接近中

【2008年2月18日 Cornell University Press Release

アレシボ天文台のレーダー観測で、地球に接近中の小惑星2001 SN263が三重系であることが発見された。バイナリ小惑星(二重系)というのは珍しくないが、地球接近小惑星で三重系というのは初めてだ。この2月、地球接近小惑星としては明るい約12等で見えている。


(小惑星2001 SN263のレーダー画像)

アレシボ天文台でとらえた2月13日のレーダー画像。小さい2体はいびつな形状だ(提供:Michael Nolan, Arecibo Observatory)

(アレシボ天文台の画像)

直径305mの固定球面鏡をもつアレシボ天文台。小惑星観測の強力な武器でもあるが、予算見直しで閉鎖の危機が迫る(提供:NAIC - Arecibo Observatory, a facility of the NSF)

2001年に発見された地球接近小惑星(near-Earth asteroid)のひとつである小惑星 (153591) 2001 SN263は三重系であることがわかった。地球接近小惑星のうち、2体からなるバイナリ小惑星はすでに30以上が知られており今後も発見は続くだろう。しかし地球接近小惑星でトリプル(3体)というのはこれが初めてだ。

三重系であることを発見したのはMichael C. Nolan氏(コーネル大学)を中心とした研究グループ。Nolan氏らは、地球に接近中の小惑星の形状をとらえようと、プエルトリコにあるアレシボ天文台の電波望遠鏡で小惑星から戻る微弱な電波を検出するレーダー観測を行い、2001 SN263 が三重系であることを発見した。現地時間の2008年2月12日とその翌日、翌々日のレーダー画像が公開されており、互いの位置が変化している様子もとらえられている。今後の解析によって、質量や立体形状、さらには組成や表面状態まで明らかになるかもしれない。

小惑星全体を見渡すと、三重系であることがわかったのは、これが初めてではない。火星軌道と木星軌道の間の小惑星帯では、小惑星 (87) Sylviaや (45) Eugeniaに2つの衛星があることが知られている。また太陽系外縁天体にも (136108) 2003 EL61という2つの衛星をもつ例がある。しかし前例はいずれも、地球に接近することのないもので、探査機の訪問歴もないため、その形状を画像で詳細に知ることはできないものばかりであった。アレシボ天文台で得られたレーダー画像から、2001 SN263の3体の直径は2km、1km、400mほどであると見積もられたが、これは前例の三重系の小惑星のサイズに比べて2桁あるいはそれ以上小さい。また3体のうち小さいほうの2体は衛星といえるものかどうか現時点でははっきりしない。系の重心の位置が常に空間上にあれば、トリプル小惑星と呼べるだろう。ちなみに四重系として知られている例は、冥王星だ。

そもそもこれらの多体系は、どのようにしてできたのだろうか。小惑星の重力は微々たるものであるが、別の小さな天体と接近したときに相対速度が小さければ、重力によって捕獲され周回しはじめることはあり得る。あるいは小惑星が何らかの理由で分裂したという可能性も考えられる。3体となった場合に、はたして軌道は安定するのか、将来お互いにぶつかったりはじき飛ばされたりすることはないのかといった天体力学的な興味の対象でもある。

2001 SN263は、地球に近づく時期にレーダー観測のターゲットになったことで三重系であることが判明したわけだが、接近の前後には口径15cm級以上の天体望遠鏡でも観測対象となる。最接近2月20日の地球からの距離は約985万km(約0.06586天文単位)。2008年2月中旬にはふたご座〜かに座にあり、地球接近小惑星としては明るい約12等の光点として見えている。多体に分離することは困難でも、CCD観測を続ければ複雑な光度曲線を得られるかもしれない。最接近の頃は天球上を1日に約3.5度も移動するので、時間をおいて観測すれば小惑星の運動を確かめることもできる。2月下旬には月明かりの影響も小さくなる。

小惑星2001 SN263の軌道要素(NASA JPL/HORIZON)

(角度に関する要素は2000.0年分点)

軌道長半径(a)1.98725108AU
離心率(e)0.47818120
近日点引数(ω)172.492434度
昇交点黄経(Ω)325.913996度
軌道傾斜角(i)6.687767度
平均近点角(M)6.301700度
元期(Epoch)2008年2月29.0日 TT

→ 星図と位置推算表

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