小・中学校で理科増量、「月と太陽」小6で復活か
【2008年2月27日 文部科学省】
文部科学省から新しい学習指導要領の案が示され、パブリック・コメント(意見公募)が実施されている。教育に関してはいつの時代もじつに多くの議論があり、愛国心などをめぐる論争が沸騰しそうだが、理科の充実が図られている点にも注目したい。
文部科学省から幼稚園、小学校、中学校の学習指導要領の改訂案が示され、2008年3月16日まで、広く国民から意見を公募している。改訂案では行き過ぎた「ゆとり教育」で学力が低下してしまった反省をふまえ、理数教育の充実が図られている点に注目したい。ここでは天文に関連する教科として、理科の内容を見てみよう。
理科全体でみると、小学校理科の標準授業時数は、現行の350時間から、改訂案では405時間へ約16%増となっている。全教科の合計時間数の増加は5%強であるから、これまで少なくなりすぎていた理科がようやく復活する案だといえるだろう。理科は現行で国語、算数、音楽、図工、体育、総合的な学習の時間よりも標準授業時数が少ないが、改訂案は国語、算数、体育に次いで4番目に授業時数が多い科目へと「昇格」する内容となっている。
また、中学校理科では現行290時間が385時間へと約33%増となっている。全教科の授業時数の合計が4%弱の増加であるから、小学校を上回る大幅な理科拡充案といえる。授業時数は、国語、数学と同じになる。これは理科にとっては大きな飛躍だ。
天文に関する内容は、小・中学校理科の「エネルギー」「粒子」「生命」「地球」という4つの柱の中で、「地球」の周辺と位置づけられている。具体的には、小学校では、4年生で「月と星」、6年生で「月と太陽」を学習する。6年生の内容は、平成元年度改訂の旧指導要領では5年生で扱っていた内容であり、復活した形だ。
中学校では、3年生で「地球と宇宙」「日周運動と自転」「年周運動と公転」「太陽の様子」「月の運動と見え方」「惑星と恒星」を学習する案となっている。中学校の現行の内容は「天体の動きと地球の自転・公転」「太陽系と惑星」であるから、月の公転をとらえる「月の運動と見え方」が加わったほかは、現行の内容を細かく分け詳しく扱えるようにしたものといえる。太陽系よりも外側の世界の取り扱いは、現行では「太陽系外に恒星があることにも触れること」にとどまっていたが、改訂案では「恒星の集団としての銀河系の存在にも触れること」となっており、恒星から銀河系へ、宇宙がやっと少し広がりそうだ。
観察された事実を通して学ぶ内容となっているためか、天文といっても現代的な天文学ではなく、月や太陽、星の動きを見ることに重点が置かれている。分析したり解釈したりする技能は「生きる力」として大切なことであるが、理科をきっかけに子どもたちが宇宙に親しみを感じられるかどうかは、現場の教師の力量にもかかっている。また、学校で教わる天文は、子どもたちが日常的に接しているアニメやゲームなどに出てくる刺激的な(かつ、間違った)宇宙像を正す内容にはなっていない。将来、日本人が宇宙をどのようなものとしてイメージするか、学習指導要領の及ぼす影響は小さくはないだろう。
新しい学習指導要領は2009年度から移行措置が始まり、小学校は2011年度、中学校は2012年度に全面実施となる。改訂案に関して意見のある方は文部科学省に送ってみよう。