学生アンケート、天文サークル所属の学生の意識変化を示す
【2008年7月18日 アストロアーツ】
天文サークルに所属する大学生は天文についてどのような意識を持っているのだろうか。アンケートによれば、かつてのように研究や観測に本格的に取り組む志向は薄れているものの、新たな形で天文学の発展に寄与できる可能性が示されている。
「学生による天文活動の現状と天文を通じた交流活動に関するアンケート」
集計結果と分析・論評
2007年12月8〜9日に、大学天文サークルの全国集会、「第19回天文冬の陣」が広島県三原市で開催されました。その場で私は「学生による天文活動の現状と天文を通じた交流活動に関するアンケート」と題するアンケートを配布しました。
私は大学天文サークルの活動やサークル間の交流活動に長い間参加しており、活動を通して色々な大学の活動を見聞しサークルのOBOG諸氏の話をうかがう中で、長期的な傾向として大学天文サークルの活動が全国的に停滞しており、観測技術の低下が起こっていると感じていました。具体的には、かつて研究の基礎となるようなアマチュア観測の一翼を担った団体が、現在では楽しむ程度に星空観望をするにとどまり、場合によっては単なるお遊びサークルになっているということも多々あるようです。
宇宙物理を学び天文普及に携わる立場としては少し物悲しい気もしますが、あくまでアマチュアだから、楽しむ程度に活動すればいいというのも考え方の一つと思われます。前述の天文サークルの活動の停滞はあくまで私の主観やOBOG諸氏の話にもとづくものであり、数値的に分析したものではありませんでした。「大学の天文サークルが現在どういう状況にあるのか?」これを統計的にデータとして把握したいというのもアンケートを実施するにいたった動機の一つです。
それでは、アンケート結果の報告に移らせていただきますが、その前に、アンケートの統計的有意性についてお断りさせていただきます。
2007年度時点で4年制の大学は日本に約750程存在し、そのうち天文サークルのある大学は調べたところ157大学ありました。そのうち天文冬の陣に参加したのは18大学にとどまり、総参加者のうちアンケートに回答していただけた方は半数弱にとどまりました。
結論から申しますと、このアンケートの統計的な有意性は極めて小さいものです。天文サークルの現状を統計的に数字を用いて算出したいということがアンケートの目的の一つでしたが、その目的が達せられたか正直、何とも言いがたいものです。そのことをあらかじめお伝えしたうえで、結果を報告いたします。
天文経験の度合いと、所属学科に関しての調査です。天文サークルに所属する学生は文系・理系の比率は半々ぐらいで、天文歴に関しては6割もの人が大学からという回答をしています。幼少のころから、つまり天文少年少女の延長で今に至っているという学生は2割にとどまりました。
天文・宇宙への情熱・意気込み(将来にわたりどのように接して行きたいか)に関しての調査です。その道を目指すというのは天文学者に限らず、天文普及関係者や宇宙開発・工学関係者なども含むことをアンケートに記載しました。天文の研究者になるには多くの場合、物理学科や天文学科を卒業する必要がありますが、他の職は必ずしもそういうわけではありません(何になるにせよ、天文を飯の種にするのは狭き門ですが…)。
しかし、本職にしたいという声は1割にとどまりました。そして、趣味にとどめるにしても、「天文学を勉強したい」というより「星見を楽しみたい」という声が若干多く、自分が感じている現在の天文サークルの雰囲気と一致しているように思いました。
興味ある分野についての調査です。この項目は、複数回答可としています。「星空の文化」とは星座や神話・星占い等の事を指します。
一番のピークは、宇宙物理としての天文学よりも星空の文化や天体写真の項目に表れています。これも、最近の天文サークルの毛色を示しているものだと感じました。
宇宙物理としての天文学の分野についてはスケール別に分類しました。宇宙論や宇宙構造のようなマクロスケールな分野よりも、太陽系など身近で(宇宙規模では)比較的ミクロスケールな分野の方が人気が高くなっています。これは、アマチュアとして実際に観測・観望できるものに興味の対象が絞られる事を示すのでしょうか。
最近の天文サークルが力を入れていると思われる活動として学祭でのプラネ作製が挙げられますが、意外にそこまで人気ではなかったことは驚きです。
天文普及のアルバイトやボランティィア経験の有無についてです。
4割近くの学生が「ある」と回答しました。先ほどの「興味ある分野」で「天文教育普及」をあげた人数は最下位であり、特化して天文普及に興味を持つ学生は少ないようですが、それでも、4割もの学生がそのような活動に携わっているというのは天文普及に携わる立場としては嬉しい結果です。
学生による天文普及活動は、知識や技術・表現力という点ではプロの研究者や学芸員には劣るものですが、子供たちに年が近く、活気があり時間的ゆとりに満ちているというアドバンテージがあります。普及活動に励む学生の今後に期待したいと思います。
このアンケートには、大学天文サークルの現状調査のみならず、サークル間交流活動や今後の冬の陣開催についての項目もあります。それらのアンケート結果に関しては、今回の報告の趣旨に外れるものと考え、割愛させていただきます。
今回のアンケート調査は全国のすべての大学天文サークルの会員に行ったものではなく、意欲を持って冬の陣に参加し、私の理念に理解を示しアンケートに協力した一部の学生に対して行ったものであり、先述のとおり統計的有意性がどれほどあるものか保証する事はできませんが、参考程度にとらえることはできると思われます。
調べてみたところ、現代の大学天文サークルが、観測や研究ではなく気軽な気持ちでの星見を楽しむコミュニティ志向が強いという、私の感覚と一致するものが数字にも表れていました。
一方、普及活動などに励む学生も意外に多く、大学天文サークルの天文界への貢献のもう一つの手法として注目されるものです。大学天文サークル、ひいてはアマチュアの天文団体がどのように天文学の発展に寄与できるか時代とともに変わる部分はあると思います。団体としてどうあるべきか、一概に何が正しいとは断言できないものですが、大学天文サークルの今後の活動の活性化を期待したく思います。
※山形大学素粒子論研究室 M2/天文教育普及研究会 東北支部学生会員/日本大学理工学部天文研究会OB