希少ならぬ生焼けの「レア」メタル? 超新星から初検出

【2008年9月16日 理化学研究所

日本のX線天文衛星「すざく」による観測で、レアメタル(希少金属)とされるクロムやマンガンが、「核融合暴走型」と呼ばれる超新星で生成されていることが初めて特定された。爆発の広がり方が従来のシミュレーションと異なることも示され、研究に大きな一石を投じた。


(チャンドラX線天文衛星で撮影された「ティコの超新星」の残骸の画像)

チャンドラX線天文衛星で撮影された「ティコの超新星」の残骸の画像。クリックで拡大(提供:NASA/CXC/Warren&Hughes)

(ティコの超新星が爆発した瞬間の想像図)

ティコの超新星が爆発した瞬間の想像図。クリックで拡大(提供:RIKEN/Tamagawa)

理化学研究所の玉川徹氏らの研究チームは、日本のX線天文衛星「すざく」に搭載されている高感度X線CCDカメラを使い、カシオペヤ座にある「ティコの超新星」の残骸を観測した。この超新星は1572年に出現し、デンマークの天文学者ティコ・ブラーエが観測記録を残したことで知られる。

ティコの超新星は核融合暴走型に分類される。大質量星が燃料を使い果たしたときに起きる「重力崩壊型」と違って、白色矮星(太陽のような恒星が燃料を使い果たしたあとに残る星)にガスが流れ込み臨界質量を超えたときの暴走的な核融合で爆発を起こす。

核融合暴走型超新星は、宇宙そのものの成り立ちを研究する上で欠かせない存在だ。宇宙に存在する鉄の大半はこのタイプの超新星で生成される。さらに、爆発時の絶対光度が一定なので、遠方天体までの距離を測定し宇宙膨張の変化を知る上で欠かせない存在なのだ。

「すざく」の観測によって、鉄だけでなく、クロムやマンガンが発する微弱なX線も検出された。核融合暴走型超新星でクロムやマンガンが作られることは理論的に予測されていたものの、実際に見つかったのは今回が初めてである。また、測定された量も、理論と一致していた。

地球におけるクロムやマンガンの埋蔵量は鉄の数千分の1しかなく、ステンレス合金の元となるなど産業上も重要であるためレアメタル(希少金属)と呼ばれている。しかし宇宙物理的に見ると、最終的に鉄ができるはずの核融合反応が不完全だったときに生成されるのが、この2種類の金属。ティコの超新星で観測されたクロムやマンガンの量は鉄の50分の1もあり、希少の「レア」というよりは生焼けの「レア」メタルというのがふさわしいかもしれない。

さらに研究チームは、正面から見た残骸の姿を分析するだけでなく、視線方向に広がっている物質の速度を測ることで、超新星残骸の立体構造を初めて明らかにした。残骸の中心には重い鉄、その外側には比較的軽いアルゴン、硫黄、ケイ素というように、きれいな層状に分離しているようだ。こちらの観測結果は、予測と大きく異なる。最近のシミュレーションでは、爆発は球対称でなく元素が複雑に混ざり合うという結果がでていた。

世界最高精度でX線の波長の違いを見分ける「すざく」や、さらに高い能力を持つ次世代X線天文衛星によって、今後さらに多くの核融合暴走型超新星残骸が観測されることが期待されている。


この研究は、9月11日〜13日に岡山理科大学で開催された日本天文学会の秋季年会の記者会見で発表された。