すばる望遠鏡が明かした、ダイヤモンドのありか

【2009年4月17日 すばる望遠鏡

すばる望遠鏡が若い恒星「イライアス1」を取り巻く円盤内を観測し、中心から約30天文単位の領域にダイヤモンドが集中して存在することを明らかにした。観測を行った研究チームによると、星を取り巻く円盤内でダイヤモンドが形成されるには、かなり幸運な条件がそろわなければならないようだ。


(イライアス1を取り巻く円盤の想像図)

イライアス1を取り巻く円盤の想像図。クリックで拡大(提供:すばる望遠鏡プレスリリースページより、以下同様)

(イオン化光と非イオン化光で見た銀河の画像)

PAHとダイヤモンドの柱密度を円盤半径の関数としてあらわしたもの。PAHは中心から外側にむかって増え、ダイヤモンドは半径30天文単位付近でもっとも多い。

1983年、イライアス1というおうし座方向に位置する若い星のまわりに、ダイヤモンドに特徴的なスペクトル輝線が観測された。発見されたダイヤモンドはとても小さな粒子で、星を取り巻く円盤のほんの一部であるのだが、すべて集めると月の数分の1程度となることが明らかになった。以降ダイヤモンド探査の観測は続けられており、これまでに同様の輝線を伴う星が3つ発見されている。

独・ハイデルベルクのマックスプランク天文学研究所(MPIA)、北海道大学、国立天文台などの共同研究チームは、すばる望遠鏡の赤外線分光装置(IRCS)と補償光学装置を組み合わせ、イライアス1の詳細な観測を行った。

その結果、ダイヤモンドは中心付近に集中していて、中心から30天文単位(1天文単位は地球と太陽の平均距離で約1億5000万km)あたりでもっとも多いことが明らかとなった。一方、30天文単位よりも外側には、ダイヤモンドのような結晶質ではなくPAH(芳香族炭化水素)と呼ばれる炭素分子が存在していた。星を取り巻く円盤内で、このような分布が明らかになったのは初めてのことである。

研究チームは、観測結果と過去に行われたダイヤモンドの形成実験の結果を合わせることで、星を取り巻く円盤内にダイヤモンドの鉱山を見つけるのは容易ではないという結論を導きだした。

その実験とは、1996年にドイツの材料科学者が行ったものである。タマネギ状の構造を持つ炭素物質に真空内で高エネルギー電子ビームを与えて、小さなダイヤモンドの粒子が形成されることを確認したのだ。

研究チームによれば、ダイヤモンドが見つかっている天体は実は連星系であって、X線フレアが伴星(軽い方の星)から主星に向かって吹き出し、そのX線フレアが実験室の高エネルギー電子ビームに相当するというのである。実際、ダイヤモンドが見つかった若い星は、X線観測からいずれも高いエネルギーのフレアを持つことが知られている。さらに、球殻状の炭素分子を作るには、星周円盤に存在している炭素物質を温める必要があるが、イライアス1のように太陽の数倍程度の重さがある星であれば、その星からの熱でじゅうぶんに温められるのである。

つまり、星を取り巻く円盤内でダイヤモンドが生成されるには、中心星が太陽の数倍程度の重さを持つこと、連星系であり、その伴星がX線で見えるような高エネルギーのフレア(爆発現象)を持つことなどの条件がそろう必要があり、ダイヤモンドはめったに存在できないはずだという。

しかし、宇宙におけるダイヤモンド探しは始まったばかりである。研究チームでは、ダイヤモンドが存在する場所の温度や密度、圧力といった条件を特定するため、今後も詳細な観測を続ける予定だ。