すばる望遠鏡、アンドロメダ座大銀河に銀河形成の名残を発見

【2010年1月29日 国立天文台 アストロ・トピックス(532)】

銀河系などの大きな銀河は、小さな銀河の吸収・合体によって形成されると考えられている。すばる望遠鏡は、アンドロメダ座大銀河のハローに、小さな銀河が合体した際に潮汐力で引き伸ばされたと思われる恒星の集団「恒星ストリーム」を発見した。


アストロ・トピックスより

(銀河構造の模式図)

銀河構造の模式図。クリックで拡大(提供:国立天文台)

(アンドロメダ座大銀河中心からおおよそ 6万5000光年の半径の領域の画像)

アンドロメダ座大銀河中心からおおよそ6万5000光年の半径の領域の画像。クリックで拡大(提供:国立天文台広報普及室)

(アンドロメダ座大銀河ハローにおける赤色巨星分布の擬似カラーマップ)

アンドロメダ座大銀河ハローにおける赤色巨星分布の擬似カラーマップ。丸の中が新たに見つかった恒星ストリーム(E、F、SW)。クリックで拡大(提供:国立天文台)

東北大学、東京大学、国立天文台、カリフォルニア大学などの研究者からなる国際研究チーム(注)は、すばる望遠鏡を用いた観測で、アンドロメダ座大銀河のハロー(銀河円盤を囲む領域)に、かつての矮小銀河(わいしょうぎんが)合体の名残と思われる恒星の集団「恒星ストリーム」を発見しました。さらにケック望遠鏡による分光観測で、その恒星ストリームの詳しい空間構造と速度分布を明らかにすることに成功しました。

銀河系やアンドロメダ座大銀河といった渦巻銀河のハローには、100億歳を超えるような古い年齢の恒星が、銀河円盤を囲むように広く分布しています。これらの恒星は、銀河の形成と進化過程に対してたいへん重要な情報を提供するものと考えられています。とくに、現在の標準的な銀河形成理論では、銀河系をはじめとする大きな銀河は、矮小銀河のような小さな銀河が合体したり、潮汐(ちょうせき)力で壊れたりする過程を通して現在の姿になったとされており、ハローにはこういった出来事の名残が多く残っていると考えられています。

このような過去の合体過程の形跡は、「恒星ストリーム」と呼ばれる恒星の集団として観測的にとらえることができます。恒星ストリームは、小さな銀河が大きな銀河へと落ち込みながら軌道運動する際、潮汐力によって長く引き延ばされたためにできた恒星の集団で、恒星ストリームを成す個々の恒星は、同じような速度で集団運動することが知られています。

ハローに恒星ストリームが存在すると、それは、恒星の非一様な空間分布として現れます。このような恒星の非一様空間分布を見つけるには、銀河系よりもアンドロメダ座大銀河が適しています。なぜなら、アンドロメダ座大銀河は、我々からは円盤をやや横から見るような向きとなるので、ハロー部分を観測しやすく、しかも銀河の外から見ることができるため、様々な恒星の分布を直接観測することができるからです。

このような観点から、東北大学の田中幹人(たなかみきと)研究員(観測当時は東京大学博士課程大学院生)を代表とするチームは、すばる望遠鏡の主焦点カメラを用いて、アンドロメダ座大銀河ハローの広い領域を、VとIの2バンドで測光観測しました。

アンドロメダ座大銀河は銀河系からもっとも近い渦巻銀河で、距離は約250万光年です。そのため見掛けの広がりがとても大きく、視野が広いすばる望遠鏡の主焦点カメラを用いても、ハロー全体を測光観測するには膨大な時間を要します。そこで研究チームでは、恒星分布を解析しやすい場所のいくつかを観測し、これまで観測されていなかった領域に、明らかに恒星の空間密度が高い2つの構造(ストリームE、F)を発見しました。また、後に他の共同研究者の観測結果と組み合わせた結果、別の観測領域にもストリームSWという比較的薄い構造が存在することを明らかにしました。

さらに、本チームの共同研究者であるP. Guhathakurta教授(カリフォルニア大学サンタクルツ校)を代表とするチームは、ケック望遠鏡の多天体分光装置を用いて、すばる望遠鏡で発見したストリーム構造を構成する個々の恒星の分光観測を行いました。分光観測から得られたスペクトルからは、ドップラー効果による恒星の視線速度が分かります。これにより、アンドロメダ座大銀河のハロー内にある一般星の運動や、その手前に重なって見える銀河系内の恒星の運動を区別して解析することができます。

その結果、ストリーム構造が見えた領域では、確かに恒星が集団で同じような運動をしていることがわかりました。これは、まさに矮小銀河が潮汐力で破壊されて引き延ばされたときに期待される空間運動です。すなわち、標準的な銀河形成論で予測される、矮小銀河の合体過程による大質量銀河の形成のシナリオを裏付ける証拠を得たことになります。

田中幹人研究員は、「ハローのもっと広い領域の観測をさらに進めることによって、大きな銀河の形成にどのような質量の矮小銀河が、それぞれどのぐらいの割合でかかわっていたのかといった、銀河形成過程において重要な問題を解明することが目標になります」と話しています。

この研究成果のうち、すばる望遠鏡の主焦点カメラによる恒星ストリームの発見は、2010年1月7日発行の米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」708号に掲載されました。

一方、ケック望遠鏡による分光観測の結果は、2010年1月7日に米国の首都ワシントンで行われた第215回アメリカ天文学会で記者会見講演に選ばれ、報告されました。

注:田中幹人(東北大学/東京大学)、千葉柾司(東北大学)、小宮山裕(国立天文台)、家正則(国立天文台)、Puragra Guhathakurta(カリフォルニア大学サンタクルツ校)、 Jason S. Kalirai(NASA宇宙望遠鏡科学研究所)、その他、カリフォルニア大学アーヴィン校、ヴァージニア大学、マサチューセッツ大学、エール大学、ワシントン大学、コロンビア大学、カリフォルニア工科大学の研究者からなるチーム

<参照>

  • 国立天文台ハワイ観測所・すばる望遠鏡: アンドロメダ銀河ハローに新しい恒星ストリームを発見〜矮小銀河合体による銀河形成の痕跡〜
  • University of California at Santa Cruz: New tidal streams found in Andromeda reveal history of galactic mergers
  • "Structure and Population of the Andromeda Stellar Halo from a Subaru/Suprime-Cam Survey"(Tanaka M., Chiba M., Komiyama Y., Guhathakurta P., Kalirai J. S., Iye M., 2010 ApJ 708, 1168)
  • "The SPLASH Survey: Spectroscopy of Newly Discovered Tidal Streams in the Outer Halo of the Andromeda Galaxy"(Guhathakurta P., Beaton R., Bullock J., Chiba M., Fardal M., Geha M., Gilbert K., Howley K., Iye M., Johnston K., Kalirai J., Kirby E., Komiyama Y., Majewski S., Patterson R., Tanaka M., Tollerud E., SPLASH collaboration, January 7, 2010, the 215th meeting of the American Astronomical Society)
  • 国立天文台 アストロ・トピックス(532): アンドロメダ銀河に矮小銀河合体による銀河形成の名残を発見

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