行方不明だった「普通」の物質の在り処、明らかに

【2010年5月20日 Chandra Press Room

近傍宇宙では星や銀河など「普通」の物質の量が遠方宇宙に比べて半分しか観測されていなかったが、数千個の銀河が集まる巨大な壁構造に検出された大量の希薄な高温ガスが、その残り半分の在り処であるようだ。


(銀河の壁をX線が通り抜けてくるイメージ画)

銀河の壁をX線が通り抜けてくるイメージ画。クリックで拡大(提供:NASA/CXC/M.Weiss; Spectrum: NASA/CXC/Univ. of California Irvine/T. Fang et al.)

(ちょうこくしつ座の方向にある銀河がつくる壁構造(Sculptor Wall)の位置

ちょうこくしつ座の方向にある銀河がつくる壁構造(Sculptor Wall)の位置。クリックで拡大(提供:NASA/CXC/Univ. of California Irvine/T. Fang et al.)

宇宙は、ダークエネルギーやダークマターがほとんどを占めており、星や銀河団など観測可能な「普通」の物質(バリオン;陽子や中性子など)は、4パーセントしかないと考えられている。

しかし、その普通の物質の量も、遠方宇宙の観測から予測される量に比べると、近傍宇宙では半分ほどしか見つかっていない。残りの半分が一体どこでどのような形態で存在しているのかは謎で、「ミッシングバリオン問題」などと呼ばれている。

最近の研究によって、そのほとんどが中高温銀河間物質(WHIM)という高温ガスの中に存在していることが予測されていたが、WHIMはひじょうに希薄なため、直接とらえるのは難しかった。

NASAのX線天文衛星チャンドラとESAのX線観測衛星XMM-Newtonは、銀河が壁のように集まる構造を観測した。宇宙は、膨大な数の銀河が平面状に集まって「壁」のように分布している領域と、銀河がほとんどない領域に分かれていて、その2種類の領域がつくる網の目のような構造が連続して広がり大規模構造を形成している。観測された銀河の壁はちょうこくしつ座の方向約4億光年の距離にあり、数千万光年もの長さに伸びている。

両衛星はWHIMを直接とらえる代わりに、壁構造の背後に位置する天体からのX線をWHIMが吸収するようすを観測した。X線を放射する天体は、銀河の壁のはるか向こう、約20億光年彼方に位置する超巨大ブラックホール(活動銀河核)だ。周囲の物質が急速に成長するブラックホールに向かって落ち込み、ひじょうに強いX線が放射されている。そのX線がWHIMを通り抜けてくるときに受ける吸収のようすを調べたのである。

X線の吸収にあらわれた特徴から得られたWHIMまでの距離は、壁構造までの距離と一致していた。さらに、予想されていたWHIMの温度と密度にも一致した。つまり、WHIMが数千個の銀河とともに壁に存在していることが示されたのである。

今回の成果を受けて、宇宙の大規模構造内のほかの場所でも同様にWHIMが発見されると、研究者は確信を強めているようだ。

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