宇宙に満ちている可視光線源をほぼ全て解明!
【2011年7月11日 名古屋大学】
名古屋大学と東京大学のグループが、NASAの探査機「パイオニア10号」と「11号」のデータを利用し、世界で初めて宇宙空間にある可視光線の明るさを計測した。これにより、現在既にわかっている可視光線源で宇宙に存在する全ての可視光線を説明できることがわかった。
宇宙にどれだけの光が満ちているのかという問題は、「オルバースのパラドックス」(注1)を初めとして、宇宙がどのような姿なのかという問題と絡んで古くから議論されてきた。
地球にいると昼間は太陽が、夜は多くの星たちが輝いているが、一見すると何もない夜空の一部でも大気の放射などによってわずかに輝いている。では、宇宙空間で星も何も見えないところは全く光が存在しない領域なのだろうか。
ハッブル宇宙望遠鏡など、地球近傍から天体が全くなさそうなところを観測しようとしても、地球大気による放射や黄道光(注2)によって、微弱な宇宙空間の可視光線の明るさを測定することが困難である。
そこで今回、1970年代に打ち上げられたNASAの探査機「パイオニア10号」と「11号」が火星から木星の間の軌道を飛行している際に取得した宇宙空間の明るさのデータを利用して、星が全く見えない領域の可視光線での明るさ(注3)について計測を行った。
得られたデータから、まず天の川や星の光を1つ1つ取り除いた。残った部分に光を出すものは全くないように思えるが、星間塵と呼ばれる塵が宇宙空間を漂っており、それらが光を反射するなどして可視光線を出していると考えられる。そこでこれまでの天文観測によってわかっている星間塵のエネルギーと「パイオニア」が取得した光の明るさを比較したところ、綺麗なグラフを描くことができ、宇宙に満ちている可視光線の明るさを求めることができた。
これによって求められた明るさは8nW/m2/Sr(注4)、「真っ暗な東京ディズニーランドをろうそく3本で照らしたくらいの明るさ」だという。
この宇宙に満ちている可視光線の明るさと、ハッブル宇宙望遠鏡による超高精度観測によって見つかった全ての銀河の明るさの総和を比較してみると、それがほぼ同じであることがわかった。これは、宇宙に満ちている可視光線の明るさが銀河からの明るさで説明できることを意味している。
つまり、その存在が予想されている暗黒物質や暗黒エネルギーといったものは可視光線では全く光を出していないと言える。暗黒物質や暗黒エネルギーは銀河などを構成する「普通の物質」と比較して非常に大量にあるため、もし非常にわずかでも光を出していると、全体の総量で見れば非常に大きくなってしまうからだ。
これは暗黒物質の性質にひとつのはっきりとした条件をつけると共に、この宇宙の成り立ちを探る上で、可視光線の起源はほぼ全て解き明かしていることを示しており、今後の宇宙全体の姿を解明するための研究に大いに貢献することが期待される。
注1:「オルバースのパラドックス」 無限に広がる宇宙において、星の分布がほぼ一様で、その大きさも場所によって変わらないと仮定すると、空は全体が太陽面のように明るく光輝くはず、というパラドックスのこと。実際には宇宙は有限であり、また星は宇宙空間に一様に分布していないため、このパラドックスは解消されている。
注2:「黄道光」 太陽系内に漂っている塵が太陽光を散乱して発生させる光。天の川よりも淡いが、肉眼で見ることもできる。
注3:「マイクロ波宇宙背景放射との違い」 何もないところに満ちている光というと、ビッグバンの名残であるマイクロ波宇宙背景放射というものもある。これはビッグバンによって発生した光が宇宙の膨張と共に赤方偏移し、マイクロ波として観測されるものである。ここで議論されている可視光線の「宇宙背景放射」は、ビッグバンなどとは無関係であり、通常の星の光が起源である。
注4:「8nW/m2/sr」 1平方メートル、1ステラジアンあたり8ナノワットという意味。ステラジアンとは立体角という3次元の球面における角度の単位。