30年来の謎、パイオニア・アノマリーの原因がついに判明か
【2011年7月27日 アメリカ惑星協会】
1980年代に発覚した、NASAの探査機「パイオニア10号、11号」の謎の減速現象「パイオニア・アノマリー」の原因は、原子力電池の熱によるものということになりそうだ。過去のデータの掘り起こしとシミュレーションを組み合わせることにより判明した。
太陽系の外惑星である木星や土星の探査を目的として打ち上げられた探査機「パイオニア10号、11号」は既に運用を終了しているが、未だ解決されていなかった謎を残していた。この謎はパイオニア・アノマリーと呼ばれる現象で、非常にわずかではあるが、予想よりも太陽側に加速(つまり外向きに飛んでいる探査機にとっては減速)していることを指す。
減速といっても非常に小さなものであり、地球の重力加速度の約100億分の1しかなく、1年かかってやっと400kmの誤差が生じるものである。
1980年にJohn Anderson氏によって、このパイオニア・アノマリーが発見された。原因を探るべく、未知の重力天体や未知の重力理論の兆候、ダークマターやダークエネルギーの影響など、様々な案が検討されたが、これまでその原因ははっきりとはわかっていなかった。
そこでSalva Torshev氏らの研究チームは、様々な支援を受けながら、これまで埋もれていたデータを復旧させ、データ解析とシミュレーションを行った。問題が発覚した当初は、この加速の度合いは時間と共に変化していなかったため外部要因が考えられていたが、今回復旧させたデータを見ると時間と共にこの加速の度合いが小さくなっていることがわかり、探査機内部に原因がある可能性が高くなった。このため、電力周りからの放射や、探査機のどこかからのガス漏れが、パイオニア・アノマリーの原因として疑われていた。
パイオニアをはじめ、木星よりも遠い天体を探査する探査機はプルトニウムを利用した原子力電池が電力源となっている。原子力電池はこのプルトニウムの崩壊熱を利用して発電しているが、この熱が地球と通信するためのアンテナの裏側に当たることによって、探査機を太陽の方向に「押して」いることがわかった。
また、探査機の内部で発生した熱は本体からどの方向にも均等に放熱するように設計されているが、シミュレーションの結果、ごくわずかだが、パイオニア・アノマリーを説明できる方向に放熱具合が偏っていることがわかった。
これらの原因はこれまでも疑われていたが、今回の精密な検証によってパイオニア・アノマリーの原因である可能性が高くなったということだ。
今回の発見は、物理の何か新しい発見というわけではない。しかし、宇宙空間での精密な航行ナビゲーションや重力波探査、基本的な物理法則の検証など精密な測定が必要とされる際に、重要な視点を与えてくれたと言えそうだ。