光より速いニュートリノ? 驚愕の測定結果を精査へ
【2011年9月26日 名古屋大学/CERN/Nature News】
日欧を中心とする国際研究グループの実験で、スイス〜イタリア間で発射されたニュートリノのスピードが光速を超えるという測定結果が出た。現代物理学の前提となる理論では光より速いものはないとされており、また天文学上の観測結果とも食い違うために、困惑した研究者らは学界をあげての精査を行っていく構えだ。
スイス・ジュネーヴ郊外の欧州原子核研究機構(CERN)で行われているニュートリノ(素粒子の一種)に関する実験で、730km離れた伊・グラン・サッソ国立研究所(LNGS)の検出器に向けて発射したニュートリノの到達速度が、光よりも約0.0025%だけ速いという驚くべき測定結果がでた。
OPERA(長基線ニュートリノ振動実験)と呼ばれるこの実験プロジェクトは、ミュー型ニュートリノがタウ型ニュートリノに変化(振動)する現象を研究するもので、名古屋大学などの国際研究チームが2006年から実施している。
実験の副産物として得られたこの結果に、研究者らは困惑した。もし真実とすれば、現代物理学のベースであり、「光速を超える物質は存在しない」とする「相対性理論」を根底から覆すことになる(注1)。またそれ以前に、ニュートリノが光より速いのであれば、1987年に観測された超新星爆発(注2)では実際の検出より何年も前にニュートリノが地球に到達していたはずだ。
今回発表されたこの数値は、世界最高精度で精密に測定されている。CERNとLNGSの距離はGPSと光学測量を組み合わせて計測され、その誤差は20cm以内。2点における時計の同期は、原子時計をそなえた高精度GPS装置により、1ナノ秒(10億分の1秒)の精度で行われている。その結果として、求められるニュートリノの到達時間の誤差は10ナノ秒以下だ。3年間、15000回にわたる実験結果を解析して最終的な値を出した。
あらゆる誤差の可能性を調べ尽くしたが、「ありえない」結果に変わりはなかった。研究グループでは、この結果が科学全般に与える潜在的な衝撃の大きさから、拙速な結論や物理的解釈をするべきではないとの考えだ。別機関における再現実験で確かめるなど、素粒子物理学界や周辺分野あげての解決のために、今回の発表を行った。
究極精度のはずの計測にまだ落とし穴があるのか、ニュートリノに関する未知の新事実か。最高峰の研究を以てしても未だ残る大きな謎がまた1つ、人類の叡智に挑みかける。
注1:「相対性理論」 光速については、1905年にアルバート・アインシュタイン博士が発表した「特殊相対性理論」による。
注2:「超新星1987A」 1987年2月に大マゼラン銀河で発生した、観測史上に残る明るい超新星。崩壊した星の中心核から放出されたニュートリノが岐阜県の観測施設カミオカンデで検出された。