炭素のサッカーボール、宇宙で初めて固体で発見
【2012年2月28日 NASA】
60個の炭素原子がサッカーボール状に結合した物質「バッキーボール」。宇宙空間ではガス状態でしか発見されていなかったが、イギリスの大学などの研究により、初めて固体で発見された。バッキーボールは、生命の基礎とつながる炭素物質がどのように作られるかを理解する重要な鍵とされている。
NASAの赤外線天文衛星「スピッツァー」が、宇宙空間に固体状態で存在する「バッキーボール」を初めて発見した。この発見以前は、非常に微小な炭素球がガス状態で発見されていただけであった。
バッキーボールの公式名はバックミンスターフラーレン(Buckminsterfullerene)で、アメリカの建築家バックミンスター・フラーが考案した「ジオデジックドーム」のような構造から名づけられた。60個以上の炭素原子の配列が作る、サッカーボールのような中空の球構造である(画像)。この珍しい構造から、超伝導物質や医療、浄水、装甲材料などへの電気的・化学的応用に理想的な物質の候補とされてきた。
地球上ではさまざまな形状で見られ、ロウソクが燃える時に出る気体や、ロシアで見られる炭素鉱物シュンガイト、米コロラド州の閃電岩(落雷したときに作られるガラス質の岩)のような特殊な岩石などに含まれる。試験管で人工的に作ると、べたっとした黒褐色の物体ができる。
今回、スピッツァーの観測により、6500光年かなたの二重星「へびつかい座XX」周辺で多数のバッキーボールが結合してできた固体粒子が検出された。しかも、見つかった量はエベレスト山の体積1万個分という膨大なものだ。
「これらのバッキーボールは箱づめのオレンジみたいにお互いがくっついているんです。我々が検出したこの粒子は髪の毛の幅よりも小さいですが、1つ1つが数万個のバッキーボールの塊からできています」(英キール大学のNye Evans氏)。
バッキーボールは、2010年にスピッツァーが初めて宇宙での存在を確認した。その後も宇宙のさまざまな場所で発見され、天の川銀河近傍の小マゼラン星雲では、月15個分の質量に相当するバッキーボールが発見された。これらのケースで見つかったバッキーボールは全てガス状だった。
今回の固体粒子の発見は、固体バッキーボールが星間空間に大量に存在しうるということを示すものだ。「バッキーボールがこれまでの観測でわかっていたよりさらに広範囲に存在しているということです。バッキーボールは、全宇宙において生命の素となる重要な炭素の一形態かもしれないのです」(NASAジェット推進研究所のMike Werner氏)。