火星や金星の音を再現 英プラネタリウム番組に
【2012年4月4日 Physorg.com】
この季節、日没後の空には西に金星、南の空高くに火星が見えている。さまざまな探査や観測によってこれら惑星の風景が見えてきているが、その世界でどんな音がするのか、未だ誰も聞いたことはない。そのような中、イギリスの研究チームがシミュレーションで再現した音声がプラネタリウム番組で公開される。
長年にわたる探査にもかかわらず、地球以外の惑星の「音」についてはあまり知られていない。ほとんどの惑星探査機はカメラによる撮像と電波観測に集中しており、一部マイクを搭載したものもあったが、録音に成功した例はまだない。
英サウサンプトン大学のTim Leighton氏らは、物理学的および数学的なツールと技術を使うことで、「金星の雷」や「火星の嵐」、「タイタンの氷水を噴き出す火山」など、異世界の自然音を再現することに成功した。さらに、これらの天体での大気や気圧、温度などが人間の声に与える影響もモデル化し、地球での声を異世界での声に変換してくれる特殊なソフトウェアも開発した。
「行った計算にはとても自信を持っています。私たちは大気や気圧、流体力学などの物理学を厳密に扱ってきました。金星では、高密度の大気で振動数が低くなるため、人間の声はより深い声になって伝わるでしょう。反面、金星での音速は地球よりはるかに速くなります。実はこれらの変化は人間の脳が音源の大きさを推測するときに使うものなんです。金星での人間の声は、ちょうど深い低音の声を持った小柄な人のような声になるでしょう。たとえるなら、ホビット族のバス歌手みたいなものですね」(サウサンプトン大学のLeighton氏)。
Leighton氏は2004年に同僚のPaul White氏と一緒に、土星探査機「カッシーニ」のタイタン着陸機「ホイヘンス」が、当時は存在が推測されていただけだったメタンやエタンの湖に着水してしまうかも知れないと主張して注目を浴びていた。その際、液体メタンの流れの音をシミュレーションした(下記〈参照〉リンクの音声ファイル)。
そして今2人は大学院生たちと一緒にその成果を応用し、火星、金星、タイタンそれぞれでの雷、火星の嵐、タイタンの氷火山の音の再現に成功している。また、ルイジアナ大学のAndi Petculescu氏と協力して、他の惑星で人の声や楽器などがどのように聞こえるかの研究も進めている。
「私は宇宙で聞く音楽に興味を持っています。宇宙飛行士が火星で数か月間も過ごすことになったら、彼らは楽器を持っていったり、または向こうで楽器を作ったりするかもしれません。彼らの演奏はどのような音になるでしょう? 科学者としてもっとも興奮する仕事とは、今まで一度も触れていない全く新しいアイディアにあると思います」(Leighton氏)。
今回Leighton氏らによって得られた音は英南部ウィンチェスターのプラネタリウムで今月初公開される予定である。