天の川銀河の中心ブラックホールに接近するガス雲が明るくなる可能性
【2013年3月21日 HPCI戦略プログラム分野5】
天の川銀河の中心にある巨大質量ブラックホールの周囲を回るガス雲が、今年夏から秋ごろにブラックホールへ接近し、その際に強い重力の影響で増光する可能性がコンピュータシミュレーションで明らかにされた。世界中の望遠鏡や観測衛星が注目する、興味深い現象だ。
わたしたちの天の川銀河の中心部には、太陽のおよそ430万倍の超巨大質量ブラックホール「いて座A*(Sgr A*:いて座Aスター)」が存在する。いて座A*は現在不活性状態(活発な活動を見せていない状態)にあり、その周辺環境がどうなっているのか注目を集めている。
2012年1月に独・マックスプランク研究所のGillessenさんらが、いて座A*に接近する、地球の3倍の質量を持つガス雲「G2」を発見した。その後の詳細な観測で、このガス雲がいて座A*の周りを運動する軌道にあり、2013年にいて座A*に最接近することが明らかとなった。
東京工業大学・特任準教授の斎藤貴之さんらは、このガス雲の3次元的なふるまいについてコンピュータシミュレーションを行い、ガス雲が2013年にいて座A*のそばを通過するときに、その強い重力の影響で何が起こるのかを予測した。事前予測によれば、もしガス雲がじゅうぶんな広がりを持っていれば、いて座A*の強力な重力で運動方向に引き伸ばされ、運動面に垂直な方向に強力な圧縮を受けると考えられた。さらに、強力な圧縮でエネルギーが解放され、ガス雲が明るく輝くだろうとも予測された。
ガス雲の形状や大きさ、密度分布などを仮定し、観測に基づいた運動のデータと合わせてシミュレーションを行った結果、ガス雲がいて座A*の極近傍を通過する際、G2はおよそ1年もの間明るく輝くことが示された。もっとも明るいときには、ガス雲の明るさは太陽の絶対光度(距離によらない本来の明るさ)の50倍にもなる。
シミュレーション画像では、ガス雲がいて座A*に近づくにつれて強力な重力で引き伸ばされていくようすを見ることができる。ガス雲は、いて座A*の近傍通過時にはシミュレーション開始時の100分の1以下にまで薄く潰され、ガスが高温になり光り輝くようになる。
現在把握されているガス雲についての情報を元にして行われた今回のシミュレーションの結果は、あくまで「可能性」ではあるが、たいへん興味深い内容だ。すばる望遠鏡やALMA望遠鏡など世界中の望遠鏡や観測衛星がこの現象に注目しており、観測結果によってシミュレーションの「答え合わせ」もできるかもしれない。シミュレーションと観測データをつきあわせることで、ガス雲G2を含めたいて座A*周辺環境の理解が大幅に進むものと期待される。