星ナビ 2007年10月号
レポート/川村 晶(本誌フォトライター)+星ナビ編集部
2007年10月1日
ちょい倍 2.3× 肉眼強化装置 笠井トレーディング ワイドビノ28
倍率2.3倍、実視界28度という超低倍率で超広視界を実現したオペラグラスのワイドビノ28。1994年の発売以来、他にはない特異な仕様で、「肉眼以上、双眼鏡未満」の星空探訪が楽しめる機材として人気を集めていたが、諸般の事情でしばらく販売が中断されていた。しかしこの夏、コーティングや各部の仕様を改良した「復刻改良バージョン」として、再び販売が開始された。
近代的ガリレオ式光学系
ワイドビノ28は、ガリレオ式望遠鏡(以下ガリレオ式)を採用した双眼鏡である。ガリレオ式は、高倍率では広い視界が得られないため、現在では天体望遠鏡としてこの光学系を採用した製品は存在していない。しかし、プリズムやミラーを使わずに正立像が得られる簡易さから、低倍率のオペラグラスなどに採用されている。ワイドビノ28は、このガリレオ式の特徴を活かしつつ、現代の光学設計を取り入れ、倍率2.3倍、実視界28度という仕様を実現している。まさに天体観察向けの「スペースオペラグラス」とも言えるものだ。
光学系は2群2枚の対物レンズに1群2枚の接眼レンズで構成されている。対物レンズに一般的な2枚玉アクロマートレンズを採用すると、広い良像視野を確保できないので、凸メニスカスレンズ2枚で構成し、パワーを分散しつつ諸収差を軽減し、かつ視野周辺部の光量も確保している。接眼レンズの凸レンズでも収差を補正しつつ、眼レンズの最終面で光束を平行にして射出している。光路図からもわかるように、広視界を楽しむにはできる限り眼レンズの近い位置からのぞき込む必要がある。そのため、眼鏡使用では広い視界を堪能することはできない。
対物レンズの第1面の枠内径は40mmあるが、倍率の2.3倍はその最低有効倍率を下回っている。眼レンズの射出側の枠直径は実測で8.6mmだが、眼を離すとそのままの大きさの円形の枠が見える。したがって、光束は眼の瞳の径に制限されるので、瞳の径を7mmと仮定すると対物レンズの有効径は約16mmとなる。つまり、集光力は肉眼の5.3倍ほどとなり、理想的な条件では肉眼よりも1.8等級ほど暗い星まで見える計算となる。裸眼の極限等級が6等なら、7.8等級の恒星まで見える計算だ。ちなみに、大きな対物レンズが必要なのは、広い視野を得るためである。