124億光年彼方で暴走するモンスター銀河

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アルマ望遠鏡による観測で124億光年彼方の「モンスター銀河」の分子ガス分布が高解像度で描き出され、この銀河で大量の星々が暴走的に生まれている様子が明らかになった。

【2018年8月30日 アルマ望遠鏡

現在の天の川銀河で星が誕生する割合(星形成率)は1年あたり太陽数個分の質量程度だが、宇宙にはその数十倍以上もの割合で星を生み出している「スターバースト銀河」と呼ばれるタイプの銀河も存在する。とくに初期の宇宙には天の川銀河の1000倍という驚異的なペースで星を作る銀河も存在し、「モンスター銀河」とも呼ばれている。こうしたモンスター銀河における猛烈な星形成活動の原因は、まだ明らかになっていない。

銀河で星がどのように生まれるのかを知るには、星の材料である分子ガスが銀河内でどのように分布しているかを明らかにすることが必須である。しかし、初期宇宙にある、つまり非常に遠方にある銀河は小さく見えるため、ガスの分布を調べるには高解像度の観測が必要となる。そのうえ、銀河は暗いため、高感度の観測も必要だ。

国立天文台の但木謙一さんたちの国際研究チームは、ろくぶんぎ座の方向に位置する銀河「COSMOS-AzTEC-1」を、高解像度かつ高感度が得られるアルマ望遠鏡で観測した。この銀河は以前の観測により、地球から124億光年彼方に位置し、猛烈な勢いで星を生み出していることが知られていたモンスター銀河の一つだ。

アルマ望遠鏡の観測によって作られた高精細な分子ガスの地図から、COSMOS-AzTEC-1では分子ガスの大部分が中心から1万光年の範囲に集中していることがわかった。これは、これまでに調べられてきた多くのモンスター銀河と同様の傾向だ。多くのモンスター銀河では中心部分で活発に星が生まれていることがわかっているので、星の材料である分子ガスが中心部に集中しているのは珍しいことではない。

さらに、COSMOS-AzTEC-1では、中心から数千光年離れた位置にも大きなガスの塊が2つあることがわかった。この塊こそが、COSMOS-AzTEC-1における爆発的な星形成の鍵と考えらえれている。

モンスター銀河「COSMOS-AzTEC-1」
アルマ望遠鏡で観測したモンスター銀河「COSMOS-AzTEC-1」。(左)分子ガス、(右)塵の分布。中心から少し離れた2つの大きな塊(矢印)でも、活発に星が生まれていると考えられている(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Tadaki et al.)

濃く集まった分子ガス雲が自らの重力によってつぶれることで、多くの星が生まれる。そして、ある程度の量の星ができると、星や超新星爆発から噴き出すガスの圧力が重力による収縮を妨げるように機能するため、星が生まれにくくなる。こうした自己制御の結果として、銀河における星形成活動は、ほどよいペースに自動的に落ち着くと考えられている。

今回の観測では圧力の分布も明らかにされており、その結果によると、COSMOS-AzTEC-1では銀河全体にわたって分子ガスの質量(重力)が大きいわりに圧力が弱く、星形成活動のペースを抑える効果が働いていないことがわかった。つまり、この銀河は、中心部だけでなく全体にわたって、極めて活発な星形成を起こしやすい状態にあったということだ。モンスター銀河について、このような性質が明らかになったのは、今回が初めてである。

COSMOS-AzTEC-1の想像図
COSMOS-AzTEC-1の想像図。円盤部にも濃く集まった分子ガスが自らの重力でつぶれ、塊となった様子が描かれている(提供:国立天文台)

COSMOS-AzTEC-1では、わずか1億年で星の材料である分子ガスを使い果たしてしまうほどの勢いで星が暴走的に生まれていると考えられる。つまり、モンスター銀河は長期間にわたってモンスターとして君臨し続けることはできないということだ。モンスター銀河が、天の川銀河のおよそ1000倍もの星を持つ巨大楕円銀河の祖先と考えられていることと合わせると、巨大楕円銀河は宇宙初期のある時期に短期間に形成され成長すると考えられる。

COSMOS-AzTEC-1が星形成活動の自己制御を失ってしまった原因として、この銀河が近い過去に衝突を経験したことが可能性として考えられている。ガスを多量に含む銀河同士がぶつかることによって狭い範囲にガスが押し込められたため、自己制御が失われて暴走的に星が生まれているのかもしれない。「COSMOS-AzTEC-1では、今のところ銀河衝突の証拠は見つかっていません。今後、アルマ望遠鏡を使ってより多くのモンスター銀河を観測することで、銀河衝突とモンスター銀河の関連を明らかにしたいと考えています」(但木さん)。