TAOに搭載される2つの観測装置がファーストライト
【2018年9月5日 すばる望遠鏡】
現在、チリ北部のチャナントール山頂で、東京大学アタカマ天文台(TAO)が建設中だ。標高5640mという世界の天文台の中で最も標高の高い場所で、非常に乾燥した気候であるため大気中の水蒸気が少なく、天体が放つ赤外線を観測するのに適した地である。
一方で、高地のために観測装置の詳細な調整や性能評価を現地で行うには様々な困難が伴う。そこで、事前に別の望遠鏡に搭載して試験観測をすることで調整作業や性能の確認が行われる。
今回、TAOに搭載するために開発された近赤外線2色同時多天体分光撮像装置「SWIMS」と中間赤外線分光撮像装置「MIMIZUKU」の2つの装置が米・ハワイのすばる望遠鏡に取り付けられ、装置の基本的な動作や性能の確認が行われた。SWIMSもMIMIZUKUも2009年に開発が始まった観測装置で、10年目の節目となる今年、ファーストライトを迎えることとなった。
SWIMSの機能試験観測は5月29日から6月1日までの4日間にわたって実施され、5月30日に天体の光を検出器で受光するファーストライト観測に成功した。
SWIMSの大きな特長の一つである2波長域同時観測により、効率良く複数フィルターでデータを取得できた。装置の観測視野内を時折雲が流れていくあいにくの空模様であったものの、「安定しない天気の下であっても2波長域を同時に観測することで同じ空の影響を受けたデータを取得することができ、その後のデータ処理の正確性、ひいては科学成果の信頼性が向上する」という、装置の設計コンセプトを立証するための試験データを取得できたともいえる。
今回は撮像機能の評価を中心とした試験観測だったが、SWIMSのもう一つの特長である複数天体の同時スリット分光機能についても来年1月に試験観測が実施される予定だ。
また、7月3日にはMIMIZUKUのファーストライト観測に成功した。明るい恒星や最接近を間近に控えた火星を観測した結果、設計通りにシャープな画像が得られることや、想定していた装置効率が出ていること、従来の赤外線観測装置に比べて非常に広い視野が得られていることなどが確認された。
MIMIZUKUには天体の画像を取得する撮像機能に加え、フィールドスタッカーという特別な光学装置が搭載されている。フィールドスタッカーを用いると、カメラの視野に収まらず普通は同時に観測することができない2天体の同時観測を実現でき、天体の明るさを精度よく測定できるようになると期待される。今回の試験観測ではフィールドスタッカーの動作が期待通りであることも確認された。
MIMIZUKUには天体の光をより詳細に調べる分光機能も搭載されており、この分光観測でフィールドスタッカーを使用する場合には、さらに難度の高い天体導入が求められる。これらの試験を行うため、今年12月にも試験観測が予定されている。
2つの装置はすばる望遠鏡での試験観測が重ねられた後、チリに輸送され、TAO6.5m望遠鏡に搭載される。
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