土星のヘキサゴンは高さ数百kmまで続いている?
【2018年9月10日 ヨーロッパ宇宙機関】
2017年にミッションを終了した土星探査機「カッシーニ」の長期観測データから、土星の北半球が夏を迎える季節に、北極域の上層にも渦ができていたことが初めて明らかにされた。この暖かい渦は、土星の雲に見られる有名な六角形(ヘキサゴン)の渦よりも数百km高い成層圏に生じている。
「今回新たに見つかった渦は縁が六角形をしていて、有名な六角形の雲の形とぴたりと一致しています。北極の温度が上がる季節になれば何らかの渦が見られるだろうとは予想していましたが、その形には本当に驚かされました」(英・レスター大学 Leigh Fletcherさん)。
この渦は、低高度の雲の層と高高度の成層圏の両方で同じ六角形構造が別々に自然発生したか、あるいは、有名な六角形の雲がその上空数百kmにまで垂直に続く構造を持っているかのいずれかだと考えられている。
土星の雲に見られる六角形は、1980年代初めに探査機「ボイジャー」によって発見されて以降、何十年も研究が続けられてきた。カッシーニでも、赤外線分光計「CIRS」をはじめとする装置によって様々な波長で観測が行われた。この雲の六角形は、おそらく土星の自転と関係して長期間続いている波動で、地球の「寒帯前線ジェット気流」と同じタイプの構造を持つ現象だ。
しかし土星北極の成層圏については、赤外線探査は何年も行われていなかった。カッシーニのミッションが始まった2004年当時の温度が摂氏マイナス158度と、CIRSが観測可能な下限温度よりも低かったためだ。「土星の1年は地球の約30年に相当する長さで、冬が長いのです。土星の北半球では2009年にやっと冬が終わりを迎え、夏に向かって徐々に暖かくなり始めました」(仏・気象力学研究所 Sandrine Guerletさん)。
北半球が夏を迎え温度が上がったことで、2014年からは赤外線で成層圏を観測することが可能になった。「CIRSで北極成層圏の渦がどんどん見やすくなるにつれて、その縁が六角形であることがわかり、長年知られてきた六角形と同じものが、これまでの予想よりはるかに高い高度にも見えていることに気づいたのです」(Guerletさん)。
今回の発見は、土星の南北両極が非常に異なっていることを示している。カッシーニが南半球の夏に南極を観測したときには、雲の上層部にも、より高い領域にも六角形は見られなかった。北極の成層圏の渦は南極のそれとは比べものにならないほど未熟で温度も低く、南極の成層圏の渦とは異なるダイナミクスが働いているようにみえる。
「この差は、土星の南北の極に私たちが知らない根本的な非対称性が存在することを意味しているのかもしれません。もしくは、私たちが最後に観測した時期には北極の渦はまだ発達の途中で、カッシーニがミッションを終了した2017年9月以降も発達を続けているということなのかもしれません」(Fletcherさん)。
風の条件は高度によって大きく異なるため、垂直に伸びる単独の六角形の構造が大気の中に存在するとは考えにくい。しかしFletcherさんたちは、北半球の大気の探査結果から、下層の雲にできた六角形と同じような波動が上層まで伝わって成層圏の六角形を作ることも不可能だと結論している。雲の層で生じた波動は雲頂で止まってしまうはずだからだ。「まずはもっと多くのことを知る必要があります。カッシーニのミッションが終わる時になってようやくこの成層圏の六角形を見つけたというのが、非常に悔やまれるところです」(Fletcherさん)。
土星北極の渦が六角形である原因を理解することは、土星大気の深いところで起こる現象が高度の高い領域にどう影響するかという点を知ることにもなる。これは、惑星大気の中でエネルギーがどう運ばれるのかを調べる研究者にとっては特に興味深いものだ。北半球は2017年5月に夏至を迎え、現在は2024年の秋分に向かっている。土星の北極域の探査は今後も進展が続くだろう。
「土星北極の六角形は、太陽系で最もカリスマ的な惑星の一つである土星が持つ象徴的な特徴です。そんな土星にまだ大きな謎が残されているのだと知って、とてもわくわくしています。カッシーニはミッションの最終段階まで、新たな知見や発見を私たちにもたらしてくれました。カッシーニのような有能な探査機なしでは、こうした謎の多くが明らかにされないままだったことでしょう。国際協力チームによって高性能の無人探査機を未探査の目的地に送り込むことで大きな成果が得られること、そして、ミッション自体が終わっても新たな成果が得られ続けることをカッシーニは示しています」(カッシーニ・ホイヘンスミッション・プロジェクトサイエンティスト Nicolas Altobelliさん)。
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