銀河の星形成は「見かけ」によらない
【2019年6月10日 愛媛大学/国立天文台野辺山宇宙電波観測所】
宇宙に存在する銀河は、新たな星を活発に生み出している銀河(星形成銀河)と星形成がほぼ止まっている銀河(非星形成銀河)の2種類に分かれる。星形成銀河の中で星を生み出す活動が止まると、その銀河は非星形成銀河へと進化すると考えられているが、銀河の星形成活動がどのようにして衰えたり止まったりするのかは完全には解明されていない。
銀河の星形成が止まる仕組みを考える上で重要な要素の一つは、銀河の「形」だ。銀河の形と星形成活動の間には密接な関係があり、星形成銀河の多くは円盤状で渦巻構造を持つ「円盤銀河」で、非星形成銀河はのっぺりした楕円型で細かい構造を持たない「楕円銀河」がほとんどであることが知られている。そのため、銀河の形が星形成活動に何らかの影響を及ぼすメカニズムが存在するのではないかと考えられてきた。
こうしたメカニズムの候補として、「形態による星形成の抑制(morphological quenching)」というモデルが提唱されている。楕円型の銀河では、銀河の星々は円盤銀河の場合よりも銀河中心部により集中して分布している。この場合、楕円銀河の中にあるガス雲には、ガス雲自身の自己重力よりも銀河全体の重力の方が強く働き、ガス雲が分裂・収縮して星になる作用が円盤銀河の場合よりも効きづらくなる。このため、楕円銀河では同量の分子ガスから星を生み出す割合(星形成効率)が円盤銀河よりも低くなり、星形成活動が抑制されやすい——というのが「形態による抑制」説だ。
実際の観測でも、楕円銀河の星形成効率は円盤銀河に比べて低いというデータが得られている。しかし、これまでの観測研究では「星形成をしている円盤銀河」と「星形成をしていない楕円銀河」で星形成効率を比べた例しかなかったため、銀河の形の影響だけを抜き出して正しく見積もることができていない可能性があった。
愛媛大学宇宙進化研究センターの小山舜平さんたちの研究チームでは、銀河の形と星形成効率の関係を正しく評価するために、「グリーンバレー銀河」と呼ばれる銀河のグループに着目した。グリーンバレー銀河は星形成銀河から非星形成銀河への進化途中にある銀河だと考えられていて、青っぽい星形成銀河と赤っぽい非星形成銀河の中間的な性質を持つことからこの名(green valley = 緑色の谷間)が付いている。グリーンバレー銀河は円盤型と楕円型両方の銀河を含んでいるため、銀河の形と星形成効率の関係を調べる上で最適だ。
小山さんたちは、グリーンバレー銀河の中から円盤型の銀河を13個、楕円型の銀河を15個選び出し、国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡を用いて一酸化炭素(CO)輝線の強さを測定した。CO輝線の強さを測ると、星の材料となる分子ガスがその銀河にどれくらい存在しているかを知ることができる。このCO輝線の強度データと、スローンデジタルスカイサーベイ(SDSS)でこれらの銀河を可視光線で観測したデータから、各銀河の星形成率(1年間に新たに生み出す星の総質量)を求めた。さらに、これら2つの情報を組み合わせ、各銀河の「星形成効率」(銀河の星形成率をその銀河に含まれる分子ガスの質量で割った値)を導き出した。
こうして求めた各銀河の星形成効率を比べたところ、調査した銀河のサンプルは全体的に星形成効率が低いものの、形の違いによる星形成効率の差はほとんどないことがわかった。つまり、グリーンバレー銀河の星形成効率は形とは無関係に低い状態にあるということになる。これは近年支持されてきた「形態による抑制」説を覆す結果で、銀河の星形成活動が止まるためには形の変化は必ずしも必要ではないことを示唆するものだ。
今回の結果を踏まえると、銀河にみられる「形と星形成の活発さ」の関係は、何か別の原因によってつくり出されていることになる。研究チームでは、楕円銀河では銀河内の分子ガスの量自体が円盤銀河よりも少なくなってしまうような何らかのメカニズムがあるのではないかと考えている。そこで同チームでは、グリーンバレー銀河の内部で分子ガスがどのように分布しているかを、分解能の高いアルマ望遠鏡を使って詳細に調べる計画を進めているという。
〈参照〉
- 愛媛大学:銀河は「見かけ」によらない?銀河進化の定説くつがえす発見
- The Astrophysical Journal:Do Galaxy Morphologies Really Affect the Effciency of Star Formation during the Phase of Galaxy Transition? 論文
〈関連リンク〉
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