大質量原始星を取り巻くガス円盤の姿

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太陽の10倍重い原始星を取り巻くガスの様子が、アルマ望遠鏡の観測により真上から高解像度でとらえられた。ガス円盤の非対称な構造や、外側から円盤に向かってガスが落下していることなどが明らかにされている。

【2019年7月16日 アルマ望遠鏡国立天文台

夜空に光る恒星の質量は、太陽の数十倍以上から太陽の数分の1まで様々だ。このうち大質量星は数が少なく、太陽系の近くに存在しておらず、さらに進化が速いといった理由により、その誕生と成長について多くの謎が残されている。たとえば、大質量の赤ちゃん星(原始星)がどのように周囲のガスや塵を取り込んで成長していくのか、その過程が小質量原始星の場合とどれほど異なるのかなどについては、じゅうぶんにはわかっていない。

山口大学の元木業人さんたちの研究チームは大質量原始星の成長過程を明らかにするため、太陽の10倍の質量を持つ原始星「G353.273+0.641」(以下、G353)をアルマ望遠鏡で観測した。G353はさそり座の方向約5500光年離れた場所に位置している。

これまでに詳しく調べられている大質量原始星の多くは、星の周囲を取り巻く円盤を横から見る位置関係にあったため、円盤の外側のガスと内側のガスが重なって見えてしまい、中心星のすぐ近くを調べることが困難だった。一方、G353は地球から見て周囲の円盤をほぼ真上から観測することが可能な位置関係にある。つまり、G353は大質量原始星を取り巻く円盤の様子を詳しく調べるのにうってつけの天体といえる。

観測の結果、G353の周囲を取り巻く円盤が半径250天文単位(約380億km)まで広がっていることが明らかになった。これは太陽系における海王星軌道の8倍以上の大きさに相当するが、他の大質量原始星の周囲で見つかった円盤に比べると小さいものだ。また、円盤の中でも中心星の東側が一段と強い電波を発していることも明らかになった。円盤が非対称な構造を持つことを示す結果で、大質量原始星の周囲で非対称な円盤がとらえられた初の観測例となる。

大質量原始星「G353.273+0.641」の擬似カラー合成画像
大質量原始星「G353.273+0.641」の擬似カラー合成画像。(赤)原始星周囲のコンパクトな構造、(黄)円盤、(青)外側に広がるガス(エンベロープ)(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Motogi et al.)

「ガスが中心に落下していくペースを調べると、原始星の年齢を推測できます。これによると、G353の年齢はわずか3000歳ほどとなり、これまでに知られている大質量原始星の中では最も若いことがわかりました。赤ちゃん星の成長の、一番初期の段階を見ていることになります」(元木さん)。

今回観測された円盤の質量は太陽の2~7倍と見積もられている。中心星の質量は太陽の10倍なので、円盤の質量は中心星の20~70%もあることになる。円盤の質量と内部のガスの運動を詳しく調べた結果、この重い円盤は安定的に存在することはできず、今後分裂して中心星に落下していきやすい状態になっていることもわかった。そのような不安定な状況が、円盤に非対称な構造を作り出していたと考えられる。これらはまさに、G353が活発に成長している途中段階にあることを示している。

今回の観測結果はこれまでに観測されている小質量原始星の周囲と性質がよく似ており、単純に規模を大きくしたものといえる。原始星の成長過程は質量に関わらず似たものであることを明確に示す結果だ。

「大質量原始星の周囲は温度が高く、円盤が安定化しやすいのではないかという認識がありましたが、 今回の観測で成長初期の重い円盤はやはり不安定になることが確かめられました。円盤の力学状態が原始星へのガス供給にどのように影響するのかを探る上で重要な発見です。また、ちぎれた円盤片は今後中心星へ落下するのか、あるいは円盤内に残って兄弟星を作るのかなど、考えるべき課題が新しく生まれてきたことも興味深いです」(元木さん)。

G353.273+0.641の想像図
G353.273+0.641の想像図(提供:国立天文台)

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