活発な原始星周辺の複雑な有機分子を10年間追跡

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アルマ望遠鏡で原始星の周囲の有機分子を10年にわたり追跡した観測から、昇華した分子の再凍結にかかる時間が従来の説よりも長いことを示唆する結果が得られた。

【2025年1月8日 アルマ望遠鏡

生まれたばかりの赤ちゃん星である原始星を取り巻く原始惑星系円盤では、複雑な有機分子が観測されている。このような複雑な有機分子(COMs; Complex Organic Molecules)は初期の太陽系星雲にも豊富に存在していたと考えられ、COMsの生成過程を知ることは生命を構成する物質の起源を探る上で重要だ。

原始星の増光によって周囲の塵が温められると、それまで氷の形態で存在していたCOMsが急速に昇華して気体となり分子輝線(電波)を放つ。これを観測するとCOMsを調べることができ、過去にはアルマ望遠鏡によって、急増光した若い星の周囲で複雑な有機分子の輝線が観測されている。この輝線の強さは星の増光に伴って増し、増光が終了して塵の表面で有機分子が氷の状態に戻れば弱くなると考えられている。急増光から減光までの1サイクルを通じて原始星を観測できれば、氷の昇華とその後の物質進化の過程を知ることができるはずだ。

韓・ソウル大学のJeong-Eun Leeさんたちの研究チームはアルマ望遠鏡を用いた観測とアーカイブデータを用いて、わし座の方向約537光年先にある原始星「B335」周辺のCOMsの様子を調べた。B335は2014年に増光し始め、最大で5~7倍ほど増光し、2023年に減光が終了した。すると、予想どおり光度の増加につれて輝線の強度が劇的に増加したが、その後光度が減少しても強度はわずかに弱まるにとどまり、予想より長く輝線が観測された。

B335の時間変化
原始星B335の時間変化(左から順に2014年、2018年、2023年)。上段:連続波の強さ。中段:複雑な有機分子が放つ輝線の強さ。下段:B335の想像図。原始星の増光と同時に周辺で複雑な有機分子が増え、減光後も複雑な有機分子が残り続けていることがわかる(提供: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO) / J.-E. Lee et al.、以下同)

これは、COMsが塵の温度上昇で急速に昇華した後、遊離した状態を保ち、塵の温度低下に伴う凍結がゆっくり進んでいたことを示唆している。「COMsが気体の形態から氷の形態に戻る時間スケールについて、従来の仮説に異を唱える結果です」(Leeさん)。

今後もアルマ望遠鏡でB335を継続的に観測することで、ガスの冷却や化学反応、塵の粒子とその周辺の分子との相互作用の時間スケールがさらに明確になると期待される。「アルマ望遠鏡での観測とジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡での観測とを組み合わせれば、複雑な有機分子の化学の全貌が明らかになっていくでしょう」(理化学研究所 楊燿綸さん)。

B335周辺の状態変化の想像図
B335周辺の状態変化の想像図。(Phase 1)原始星が明るくなる前は、複雑な有機分子は塵の表面で凍結している。(Phase 2)原始星が明るくなると、温められた塵から複雑な有機分子が遊離し、周辺にばら撒かれる。(Phase 3)原始星が減光した後も複雑な有機分子は遊離した状態を保っていた

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