ガンマ線バーストの電波残光の偏光測定に初成功
【2019年11月15日 東北大学】
2017年12月5日、NASAの天文衛星「ニール・ゲーレルス・スウィフト」が宇宙最大の爆発現象であるガンマ線バーストをコップ座の領域で検出した。ガンマ線バーストの多くは100億光年程度の遠方で起こるが、この「GRB 171205A」は5億光年と比較的近傍のものであることが地上の超大型望遠鏡(VLT)の観測でわかった。
台湾・中央大学の浦田裕次さん、東北大学の當真賢二さんたちの研究チームが米・ハワイ・マウナケアのサブミリ波干渉計(SMA)で観測を行ったところ、爆発の1.5日後にサブミリ波で残光が検出された。さらに爆発5日後に行われたアルマ望遠鏡による観測で、電波残光の微弱な偏光も測定された。ガンマ線バーストの残光の偏光は可視光線の波長域では検出されていたが、電波の波長域で検出に成功したのは今回が初めてである。
偏光の測定は非常に明るい光源でなければ不可能なため、ガンマ線バースト観測史上最も明るいサブミリ波残光を見せた「GRB 171205A」は最適な対象だった。この偏光観測では、残光を放射する衝撃波の詳しい状態、とくに高エネルギー電子の割合を見ることができるのが大きなメリットだ。
これまでの理論モデルでは、すべての電子が高エネルギーになっていると想定されていたが、予想よりもはるかに微弱な偏光が検出されたことにより、高エネルギー電子の割合は約10%であることが示された。ガンマ線バーストの爆発の総エネルギーは従来の推定より約10倍も大きいことを示唆する結果である。
「およそ10年前に電波偏光が微弱になる可能性を自分が理論予測し、それが今回実際に観測されたことに非常に興奮しました。これから他のガンマ線バーストの偏光も測定し、総エネルギーを慎重に推定していきたいです」(當真さん)。
今回の研究では複数の電波望遠鏡を連携させることで、観測・解析の手法も確立した。同様の観測を様々な種類のガンマ線バーストや類似した突発天体でも行うことで、ガンマ線バーストの理解だけでなくマルチメッセンジャー天文学の発展にもつながることが期待される。
〈参照〉
- 東北大学:ガンマ線バーストの電波偏光を初検出
- The Astrophysical Journal Letters:First Detection of Radio Linear Polarization in a Gamma-Ray Burst Afterglow 論文
〈関連リンク〉
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