誕生直後のブラックホールから届いた過去最高エネルギーのガンマ線放射
【2019年11月27日 東京大学宇宙線研究所/金沢大学/HubbleSite】
ガンマ線バーストと呼ばれる宇宙最大の爆発現象は、初発見から50年近くが経過し、現在では衛星観測などによって1日に1回程度の頻度で検出されている。その発生源としては、中性子星やブラックホールのようなコンパクトな天体同士の合体、または大質量星の重力崩壊に伴う大量のエネルギー放射だと考えられている。しかし、ガンマ線バーストは突発現象のためいつどこで起こるかわからず、エネルギー放射が数秒から数分しか継続しないため、まだわかっていないことも多い。
2019年1月14日、NASAの天文衛星「フェルミ」と「ニール・ゲーレルス・スウィフト」が、ろ座の方向で発生したガンマ線バースト「GRB 190114C」を検出した。この発見情報は即座に世界中に発信され、50秒後にはカナリア諸島ラパルマ島にある大気チェレンコフ望遠鏡「MAGIC」が観測を開始した。MAGIC望遠鏡は、ガンマ線と大気中の分子とが反応することで生じる「チェレンコフ光」をとらえることで、衛星観測では到達できないほどの超高エネルギーのガンマ線を間接的に観測することができる。
MAGIC望遠鏡の観測の結果、ガンマ線のエネルギー分布は1テラ電子ボルト(可視光線のエネルギーの1兆倍程度)まで伸びていることがわかり、さらに高エネルギーまで伸びていることも示唆された。地上のガンマ線望遠鏡によりガンマ線バーストからの高エネルギーガンマ線の信号を高い信頼度でとらえたのは、今回の観測が初めてのことである。また、1テラ電子ボルトというエネルギーは、ガンマ線バーストとしては過去最高のものとなる。
ガンマ線バーストの典型的な放射メカニズムはシンクロトロン放射と考えられているが、MAGIC望遠鏡がとらえたような超高エネルギーはシンクロトロン放射では説明ができない。このようなエネルギー超過成分はフェルミのデータ(20ギガ電子ボルトまで)からも示唆されていたが、MAGIC望遠鏡の観測はこれを裏付けるものとなる。
解析から、この高エネルギーの放射成分は、逆コンプトン散乱という別のメカニズムによって説明できることも明らかになった。理論的には逆コンプトン散乱の寄与が提唱されていたが、今回の結果はこれを観測的に実証するものだ。謎に包まれたガンマ線バーストの放射メカニズムに対する理解を飛躍的に前進させる成果となる。
他の望遠鏡での観測によると、GRB 190114Cのガンマ線は約45億光年離れた天体から放出されたもののようだ。太陽質量の100倍程度の大質量星が重力崩壊してブラックホールができ、その双極方向に放射されたプラズマのジェットからガンマ線バーストが生じたと考えられている。また、ハッブル宇宙望遠鏡による追観測では、GRB 190114Cが衝突銀河の中心領域で発生した非常に珍しい例であることがわかり、銀河同士の相互作用がガンマ線バーストの発生に関わった可能性も考えられている。
今回のガンマ線バーストは特異なものではなく、多くのガンマ線バーストで同様の高エネルギーガンマ線の放射が伴っていると予測される。その検証のためには今後の検出例を増やし、今回と同様に複数の観測手段を連携させた研究が重要となるだろう。電磁波だけでなく重力波やニュートリノも含めたマルチメッセンジャー天文学により、ガンマ線バーストの起源やメカニズムの理解が進むことが期待される。
〈参照〉
- 東京大学宇宙線研究所:地上のチェレンコフ望遠鏡がガンマ線バーストの信号を初観測
- 金沢大学:フェルミ衛星とスウィフト衛星が新たな高エネルギー天文学を切り拓く-未知の高エネルギーガンマ線の放射メカニズム解明に大きく前進-
- HubbleSite:Hubble Studies Gamma-Ray Burst with the Highest Energy Ever Seen
- Nature:Teraelectronvolt emission from the γ-ray burst GRB 190114C 論文
- The Astrophysical Journal:Fermi and Swift Observations of GRB 190114C: Tracing the Evolution of High-energy Emission from Prompt to Afterglow 論文
〈関連リンク〉
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