大質量星形成領域の構造と進化過程を化学組成から解明
【2020年7月31日 学習院大学】
太陽は大質量星形成領域で集団的に誕生した可能性が示されている。星形成領域の化学組成を調べることで、星がどんな環境で進化して現在に至ったのかを推定する情報が得られるが、大質量星形成領域の化学組成に関する研究は、中小質量星形成領域に比べて進んでいない。大質量星は進化が速く、さらに地球から比較的遠いため、観測が難しいからだ。
学習院大学の谷口琴美さんたちの研究チームは、さそり座の方向に位置する大質量星形成領域「IRAS 16562-3959」をアルマ望遠鏡で観測した分子輝線データを解析し、化学組成と分子の空間分布などの情報をもとに、星の誕生現場である「コア」の進化段階を調べた。領域の中心には大質量の原始星「G345.5+1.47」が存在し、この原始星(コアA)の近傍に存在する若い星(コアB)と連星系を形成している。さらに、連星系より北側にもう一つ別のコアCが存在している。
窒素を含む有機分子(CH3CNなど)は3つのコア全てから検出されたのに対し、酸素を含む有機分子(CH3OCH3など)はコアBとCからだけ検出され、コアAでは見つからなかった。コアAは進化段階が進んでいるため、紫外線放射によってその周辺で分子が光解離され始めており、酸素を含んだ有機分子が検出されなかったと考えられる。これらの結果は、コアCに若い原始星が含まれていることや、AはBとCに比べて進化段階が明らかに異なることを示している。
また、コアBとコアCの化学組成を比較したところ、コアBの有機分子の存在量はコアCの10~100倍であることがわかった。コアBのほうがより進化の進んだ段階にあることを示している。
コアCではこれまで明確な赤外線源が同定されていなかったが、今回の観測結果とシミュレーションの結果から、すでに原始星が誕生していることが示唆される。濃いガスやダストに埋もれているために赤外線で見つけられていないのかもしれない。化学組成の分析により、従来の手法では見つけられないほど若い段階にある原始星の発見が可能であることを示す成果だ。
研究チームでは、他の大質量星形成領域のデータを含めた統計的な研究や、赤外線と電波の観測データの組み合わせなどにより、大質量星の形成過程を化学的な観点から明らかにすることを今後の目標としている。
〈参照〉
- 学習院大学:大質量星が誕生している領域の化学組成と星の進化の過程-分子で探る重い星が生まれる環境-
- The Astrophysical Journal:Chemical Composition in the IRAS 16562–3959 High-mass Star-forming Region 論文
〈関連リンク〉
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