大質量原始星の周辺は複雑な環境

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日韓のVLBIネットワーク「KaVA」およびアルマ望遠鏡の電波観測によって、質量が太陽の25倍以上の原始星を取り巻くガスの複雑な構造が明らかになった。

【2020年8月5日 国立天文台VERA

太陽の質量の8倍を超える重い恒星は、強い放射や超新星爆発による重元素の放出などにより、星や惑星の誕生、銀河の進化において重要な役割を果たしている。しかし、そのような大質量星は太陽のような軽い恒星に比べると数が少ない。また、生まれたての大質量星(大質量原始星)が存在する星団は太陽系の近くにはないため、高い解像度や感度の観測を行わなければならず、大質量星の誕生については未解明の問題が数多く残されている。

総合研究大学院大学のKim Junghaさんたちの研究チームは、たて座方向の約1万6000光年彼方にある大質量星団形成領域「G25.82-0.17」について、ガスの流れや構造に関する研究を行った。G25.82-0.17では様々な速度で運動するガスから強いメーザー(水などの分子ガスによって増幅されたマイクロ波)が放射されていて、アルマ望遠鏡による高感度な観測データがあり、大質量原始星の周辺環境を詳細に調べるのに適した領域だ。

大質量星団形成領域G25.82-017
アルマ望遠鏡で観測された大質量星団形成領域「G25.82-0.17」。波長1.3mmの一酸化ケイ素からの電波放射で手前に向かって吹き出すガス(青)と奥に遠ざかる方向のガス(赤)が示されている。南北(上下)に加えて、北西(右上)と南東(左下)方向にも淡く伸びるアウトフローが見える。中心のオレンジ色に輝く場所は大質量原始星「G25.82-W1」。中心の星間塵からの放射(緑色)には弱い放射のピークがいくつかあり、星団が形成されつつあることがわかる(提供:国立天文台、以下同)

アルマ望遠鏡の観測から、G25.82-0.17には生まれたばかりの大質量原始星「G25.82-W1」のほか、星が生まれる前の高密度ガスや進化が進んだ電離ガスが見つかっている。これはG25.82-0.17が形成途中の大質量星団であることを示している。G25.82-W1が放つ電波からは周囲のガスが高速で回転していることがわかり、ガスに働く力の釣り合いを考えるとG25.82-W1の質量は太陽の25倍以上だということも示される。

さらに、G25.82-W1からは秒速約50kmで南北(中心から上下)に吹き出すアウトフロー(高速ガス流)も見つかった。アウトフローと回転するガスという構造は、小質量原始星の周りにも見られるものだ。G25.82-0.17でも太陽のような小質量星と似たようなプロセスで大質量星が形成されることを示唆する発見となる。

この南北方向のアウトフローは差し渡し50000au(約7.5兆km)にも及んでいる一方、日韓のVLBIネットワーク「KaVA」で観測された水メーザーの分布はG25.82-W1から1000au(1500億km)と近いところに集中していた。水メーザーは大質量原始星付近から噴き出すアウトフローの根元に存在するとみられる。KaVAは国立天文台のVLBIプロジェクト「VERA」と韓国天文研究院のVLBIネットワーク「KVN」を組み合わせた共同研究ネットワークで、長基線・高解像度のVERAと短基線・高感度のKVNを組み合わせることにより両者の特徴を生かした高画質のVLBI観測を行うことができる。

「現在、KaVAで観測された新しいデータの解析を進め、この天体の3次元的な運動をとらえようとしています。これができれば、アウトフローがどのような機構で吹き出されているのかという星形成の大問題を解明できると期待されます」(Kimさん)。

G25.82-017の模式図
(左)アルマ望遠鏡で観測されたG25.82-0.17の一酸化ケイ素からの電波放射(赤、青)。南北方向と北西・南東方向のアウトフローを表す。中心に生まれたばかりの大質量原始星G25.82-W1があり、そのごく近くにKaVAで観測された水メーザーのグループが存在する。(右)G25.82-W1中心付近の拡大図。大質量原始星付近から強い水メーザーが放射されている様子を表す

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