太陽フレアを予測する画期的な計算方法
【2020年8月6日 名古屋大学宇宙地球環境研究所】
太陽フレアは、太陽黒点とその周辺の磁場に蓄積された膨大なエネルギーが爆発的に解放される現象だ。フレアが発生するとX線などの電磁波、高エネルギー粒子(宇宙放射線)やプラズマの超音速流が放出され、地球に届くと磁気圏や大気圏に大きな影響を与えることがある。その結果、宇宙飛行士や軌道上の人工衛星のみならず通信・測位・電力・航空など私たちの生活を支える社会基盤にも被害が及びうる。
被害を未然に防ぐため、太陽フレアとそれに伴う地球周辺環境の変化を予測する「宇宙天気予報」が行われている。しかし、太陽フレアの発生機構は未だ十分に解明されていないため、これまでは過去の経験を元に黒点の大きさや活動領域における磁場の形状などから確率的に予測することしかできなかった。
名古屋大学宇宙地球環境研究所の草野完也さんたちの研究グループはフレアの発生過程を説明する新しい物理モデルを開発することで、発生前のフレアを計算することができる予測方法を実現した。研究グループでは、太陽の活動領域で蓄積したエネルギーが解放されるフレアを、山に降り積もった雪が崩れ落ちる雪崩にたとえて次のように解説している。
従来の「経験的な」太陽フレア予測は、過去の経験から雪崩を起こしやすい山の大きさや形状を見出して雪崩の発生を確率的に予測することに対応する。一方、今回研究グループが開発した物理モデルによる予測は、実際に降り積もった雪の量とその分布を把握した上で、雪崩のきっかけとなる亀裂の大きさと位置に基づいて雪崩の発生・位置・規模を予測する方法に対応する。
太陽フレアで「亀裂」に相当するのは、太陽表面の近くで向きの違う磁力線の一部が繋ぎ換わる現象(磁気リコネクション)だ。これにより作られるM字型の磁力線(ダブルアーク)が電磁流体力学的な不安定性を作り出し、これが太陽フレアにつながるというのが、草野さんたちの物理モデルの基本的な考え方である。
草野さんたちはまず、どれほどの大きさの領域で磁力線の繋ぎ換えが起これば、太陽フレアが発生し得るかを計算できる方法を開発した。これをNASAの太陽観測衛星「SDO」が観測した太陽表面の磁場データに適用し、スーパーコンピューターを利用して太陽コロナ中の3次元磁場を再現することにより、過去10年間に太陽中心から太陽経度±50度以内で発生した9つの巨大太陽フレアを起こした7つの活動領域を解析した。あわせて比較のため、大きな黒点を持ちながら同様の巨大フレアを起こさなかった198の活動領域のデータも解析した。
その結果、過去10年間で最大の太陽フレアが発生した活動領域(AR 12673)を含む6活動領域における7つの巨大フレアについて、臨界半径が1000km以下で解放可能エネルギーが4×1031erg(エルグ)以上であると予測された点から発生したことを突き止めた。一方、大型黒点を持ちながら巨大フレアが発生しなかった198の活動領域では、前述の条件を満たす点はほとんど現れなかった。今回開発された方法が少数の例外を除いて巨大フレアの発生をその位置まで正確に予測できることを実証するものだ。
小規模なフレアの発生プロセスを解明することは課題として残されているものの、今回の成果は、今後の宇宙天気予報の精度向上につながるものと期待される。
〈参照〉
- 名古屋大学宇宙地球環境研究所:世界初、巨大太陽フレア爆発を正確に予測する物理モデルの開発に成功
- NASA:NASA Sun Data Helps New Model Predict Big Solar Flares
- Science:A physics-based method that can predict imminent large solar flares 論文
〈関連リンク〉
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