太陽の熱対流が磁場をねじり、フレアを起こす
【2023年6月29日 JAXA宇宙科学研究所】
太陽の上層大気であるコロナで起こる太陽フレアは、太陽系で起こる最大の爆発現象だ。フレア発生の原因は、コロナの磁場がねじれることで蓄えられたエネルギーが突発的に解放されることである。また、フレアは強い磁場のかたまりである黒点の周辺で発生しやすく、その黒点は、太陽の内部の対流層から磁力線の「たば」(磁束管)が浮上することで形成される。このことから、対流層から強くねじれた磁束管が浮上し、そのねじれが黒点を作る際にコロナに供給されることでフレアが発生すると考えられている。
しかし、対流層の内部を見通すことはできないため、実際にどのように磁束管が浮上して黒点を形成するのかは明らかになっていない。とくに、激しい熱対流が起こっている対流層で、磁束に熱対流がどのような影響を与えるかはわかっていない。
JAXA宇宙科学研究所の鳥海森さんたちの研究チームは、理化学研究所の「富岳」と国立天文台の「アテルイII」という2種類のスーパーコンピューターによる大規模数値シミュレーションを行い、対流層から磁束管が浮上して黒点が形成される様子を再現した。その際、磁束管のねじれ強度を人工的に変化させて、熱対流が磁束浮上・黒点形成に与える影響を調べた。その結果、磁束管のねじれがゼロでも、上昇流に押し上げられることで、太陽表面に到達して黒点を形成しうることが示された。
今回のシミュレーションでは、渦の向きがたまたま磁気ヘリシティ(磁場のねじれ度合いを示す量)を強化するように働いたが、熱対流の様子が異なる別のシミュレーションでは、磁気ヘリシティが減少する可能性もありうるという。
さらに、ねじれゼロの磁束管が作った黒点の磁場分布を解析したところ、小規模の太陽フレアを引き起こす能力があることもわかった。熱対流の効果だけでもフレアを説明するだけのねじれが供給されうることを示す結果である。
今回の成果は、熱対流が磁場をよじる効果によっても多大なねじれが供給されて、ねじれゼロの磁束管であってもフレアを生じる黒点が形成されうることを示したもので、従来のフレア発生メカニズムの認識に一石を投じるものとなった。
〈参照〉
- JAXA宇宙科学研究所:太陽フレアを熱対流が駆動するメカニズム~スーパーコンピュータ 富岳・アテルイII により解明
- Scientific Reports:Turbulent convection as a significant hidden provider of magnetic helicity in solar eruptions 論文
〈関連リンク
関連記事
- 2024/04/03 天の川銀河中心のブラックホールの縁に渦巻く磁場構造を発見
- 2024/04/02 太陽の極は赤道に比べて7℃暖かい、「傾圧不安定波」の観測から判明
- 2024/01/19 天の川銀河の折り重なる磁場を初めて測定
- 2023/12/22 2024年1月1日 初日の出
- 2023/12/11 100年前の黒点観測記録が太陽活動の長期変動の研究に貢献
- 2023/09/06 インド、初の太陽観測衛星の打ち上げに成功
- 2023/06/12 プラズマの放射冷却で探るM87ジェットの磁場強度
- 2023/05/26 木星大気の長期変動は「ねじれ振動」に起因する可能性
- 2023/05/10 太陽フレアが生命の材料を作った可能性
- 2023/01/30 磁場が支えていた大質量星への物質供給
- 2023/01/16 太陽黒点を自動で数える新手法
- 2023/01/11 一人で40年、世界屈指の安定性を誇る太陽観測記録
- 2023/01/06 ほ座パルサー星雲のX線偏光は、かに星雲の2倍以上
- 2022/11/22 実験室でミニチュア太陽フレアを生成
- 2022/10/07 巨大ブラックホールのフレアが電波ジェットを作り出す
- 2022/09/20 太陽磁場の反転現象「スイッチバック」の謎を解明
- 2022/08/29 宇宙最初の星は「ひとりっ子」で誕生する
- 2022/08/17 ガイアのデータで描く太陽の未来
- 2022/08/12 トモエゴゼンが赤色矮星の短時間フレアを多数検出
- 2022/07/08 太陽コロナを効率的に加熱するマイクロフレア