木星大気の長期変動は「ねじれ振動」に起因する可能性
【2023年5月26日 神戸大学】
木星に縞模様が存在することは17世紀から知られていて、それが常に変化していることも認識されてきた。しかし、そのような変化が規則的なのか、突発的なのかは、長らく明らかではなかった。
近年になり、数十年間にわたる赤外線画像の解析から、木星の南緯41度から北緯33度までの広範囲で4~9年周期で規則的に変動が起こっていることが明らかになった。この周期は、木星の1日の長さである約10時間に比べてはるかに長い。このように南北に広い範囲で数年周期で起こる、いわば「気候変動」の成因には諸説あるが、定量的に説明できる説は皆無だった。
これまでの説は、全て岩石惑星である地球の気象学の知見を基にしたものだった。そこで、神戸大学の堀久美子さんたちの研究チームは、木星がガス惑星であり、地球とは異なり地面が存在しないという点に着目した。
木星表面と深部の間には、地面に相当するようなつなぎ目はない。そのため、大気で観測される現象も深部の現象に起因する可能性がある。実際、過去の理論・数値シミュレーション研究により、深部の磁場形成領域では数年以上の周期で磁気的な波である「ねじれ振動」が励起されうること、その振動が木星表面近くの熱流を広い緯度帯で変動させうることなどが示唆されていた。
堀さんたちは、NASAの木星探査機「ジュノー」が観測した磁場、ハッブル宇宙望遠鏡の観測に基づく表面の風データ、および深部密度の理論モデルから、各緯度におけるねじれ振動の周期を理論的に算出した。その結果得られた値は3~8年で、赤外線観測で見つかった周期性を誤差の範囲内で定量的に説明できることがわかった。
さらに、「動的モード分解法」と呼ばれる新しいデータ解析法を用いて、深部ねじれ振動が期待される周波数域に微小なシグナルを抽出することに成功した。抽出されたシグナルは、期待された波長および伝播速度と矛盾しないものだった。この結果は、周期、波長、伝播速度といった深部ねじれ振動の基本的な特性が大気の観測データに反映されていることを確認するものとなる。
今回提唱された説は、従来の惑星大気研究における描像とは大きく異なっている。従来の描像は、岩石惑星である地球での知見を基に他惑星へ拡張されてきたもので、大気現象と深部現象との相互作用はほぼ議論されていなかった。それに対して、今回の研究では、木星に代表されるガス惑星を理解するには、大気現象と深部現象の両方の議論、とくにその統合的な理解が重要であることが示唆された。
ガス惑星の深部領域や磁場の形成現場は直接調べることができないため、理論を制約する実測的な情報が欠落している。その問題を解決するのが、ねじれ振動だ。ねじれ振動は、深部領域の物理的状態を強く反映していて、磁場形成領域内部を「スキャン」することが可能だ。今後、そのようにして得られる情報から、ガス惑星の代表と言える木星系の理解が進むと期待される。
〈参照〉
- 神戸大学:木星の長期変動は深部の磁気的な波に起因? 謎の数年周期性を解明
- Nature Astronomy:Jupiter’s cloud-level variability triggered by torsional oscillations in the interior 論文
〈関連リンク〉
- Juno
- HubbleSite
- アストロアーツ 天体写真ギャラリー :木星
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