ほ座パルサー星雲のX線偏光は、かに星雲の2倍以上

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ほ座パルサー星雲のX線偏光を観測したところ、かに星雲と比べて偏光度が平均で2倍以上もあるなど、極限的な強さであることが明らかになった。

【2023年1月6日 山形大学

太陽よりもはるかに重い恒星が一生の最期に超新星爆発を起こすと、その爆発の中心部に中性子星が形成されることがある。中性子星は密度が地球の数百兆倍、磁場が地球の約1兆倍もある天体で、その多くは超高速で自転している。地球から観測すると非常に短い周期で明滅する規則的な信号がとらえられるため、パルサーとも呼ばれる。パルサーから勢いよく放出された荷電粒子は周囲の超新星残骸にぶつかり、X線など非常に高いエネルギーの電磁波を放出する。そのためパルサーの周りには、X線を放出する「パルサー星雲」と呼ばれるものがよく観測される。

パルサー星雲のX線は、荷電粒子が残骸中の磁場と絡み合うことで放出されると考えられている。しかし、その磁場がどのようにしてできたのか、また磁場がどの程度そろっているのかなど、詳しいことはわかっていなかった。磁場の情報を知る強力な手段となるのは、その領域から放出される電磁波の偏光、すなわち波の振動が特定の方向に偏っている度合いを観測することだ。これまでX線の偏光が測定されたパルサー星雲は、おうし座のM1(かに星雲)だけで、星雲全体の平均的な偏光度は20%程度だった。

今回、中国・広西大学のFei Xieさんたちの研究チームは、2021年12月に打ち上げられたNASAとイタリア宇宙機関のX線偏光観測衛星「IXPE(Imaging X-ray Polarimetry Explorer)」を用いて、ほ座超新星残骸(Gum 16)を観測した。残骸の中心に位置するパルサーが超新星爆発とともに生まれたのは約1万1000年前と比較的新しく、パルサー星雲からは強いX線やガンマ線が放出されている。

ほ座パルサーとパルサー星雲
ほ座パルサーとパルサー星雲。IXPE、X線天文衛星「チャンドラ」、ハッブル宇宙望遠鏡の観測データを合成した擬似カラー画像(提供:NASA/CXC/SAO/IXPE)

当初、ほ座パルサー星雲の偏光度もかに星雲と同程度だと予想されていた。しかしIXPEによる観測の結果、偏光度は平均で45%と、かに星雲の2倍以上であることがわかった。さらに、領域を絞った場合には60%を超える領域がある。これは、荷電粒子と磁場の相互作用で生じる電磁波の偏光度としては、理論上許される最大値に近い。

この結果から、ほ座パルサー星雲内の磁場は極めて均一で、ほとんど乱れなく粒子が加速されていると推測される。しかし、そのような高度に秩序だった磁場は、不安定な流れや乱流が粒子の加速に重要な役割を果たすという理論モデルによる予測に反している。

今後IXPEは他のパルサー星雲も観測する予定で、ほ座超新星残骸のパルサー星雲に見られるそろった磁場の起源について研究が進められる予定だ。

ほ座超新星残骸とパルサー星雲
(左)ほ座パルサー星雲を形成した超新星爆発の残骸。(右)ほ座パルサー星雲と磁場の様子。画像クリックで拡大表示(提供:(左)Digitized Sky Survey, ESA/ESO/NASA FITS Liberator, Color Composite: Davide De Martin (Skyfactory)、(右)NASA/CXC/Univ of Toronto/M.Durant et al.)

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