宇宙一小さな銀河から導かれるダークマター理論への制限
【2021年2月1日 東北大学】
銀河の運動や重力レンズ効果などを通じて、宇宙にはダークマターと呼ばれる物質が大量に存在していることがわかっている。しかし、ダークマターがどのような物質でどのような性質を持つのかといったことはわかっておらず、観測や実験と理論の両面から研究が進められている。
理論研究では多種多様なダークマターのモデルが提唱されているが、有力な候補の一つが「自己相互作用するダークマター」と呼ばれるものだ。この理論によるとダークマター同士が散乱しあうため、銀河中心部に多く存在するダークマターがあまり「密」にならない分布を見せるという性質がある。
この密にならない分布は、星の数が非常に少なく、相対的にダークマターを大量に含む矮小銀河のダークマター分布を上手く説明できるとされている。一方、シミュレーション研究より、こうした銀河では超新星爆発のエネルギーによっても密にならないダークマター分布を作ることができるという結果が得られている。密にならないダークマター分布の原因が、ダークマター自身の性質なのか超新星爆発のエネルギーによるものなのかを区別することは簡単ではない。
東北大学理学研究科の林航平さんたちの研究グループは、矮小銀河の中でも小さく暗い「超低輝度矮小銀河」に注目した。この種の銀河には星がわずか数十万個以下しか含まれておらず、数千億個の星を含む天の川銀河と比べると非常に小さい。こうした宇宙で一番小さい銀河のダークマター分布は超新星爆発のエネルギーの影響を受けていないと考えられるので、本来のダークマター分布を調べるのに適している。
林さんたちは超低輝度矮小銀河の星の運動を詳細に追い、自己相互作用するダークマターに対してダークマターどうしの散乱の強さを調べた。その結果、散乱の強さが非常に低いこと、ダークマターが散乱しにくく銀河中心で「密」になりやすい性質を持つことが示された。散乱の強さは自己相互作用するダークマター理論では説明できないほど小さく、この理論に制限を与える結果となった。
今後も超低輝度矮小銀河の観測や分析を進めることで、様々なダークマター理論に対して制限をかけることが可能になるかもしれない。
〈参照〉
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