古い矮小銀河の周りに広がるダークマターハロー
【2021年2月8日 マサチューセッツ工科大学】
私たちの天の川銀河の周囲には、大マゼラン雲・小マゼラン雲という伴銀河をはじめ数十個の矮小銀河が存在している。このような矮小銀河は宇宙で最初に誕生した銀河の名残だと考えられている。
これらの矮小銀河のうち最も古いものの一つと考えられているのが、2015年に約16万3000光年彼方に発見された「きょしちょう座II」と呼ばれる銀河だ。きょしちょう座IIの総質量は約270万太陽質量だが、そのうち恒星が占めるのは3000太陽質量ほどしかなく、質量のほとんどがダークマターである。こうした、きわめて小さく暗い矮小銀河は「超低輝度矮小銀河」(ultra-faint dwarf galaxy; UFD)と呼ばれている。
きょしちょう座IIでは、非常に金属量(水素とヘリウム以外の元素)の少ない星々が銀河の中心部で見つかっており、これまでに知られている超低輝度矮小銀河の中で化学的に最も古いと考えられている。宇宙では、恒星内部の核融合で作られた重元素が超新星爆発でまき散らされ、まき散らされた物質から次の世代の恒星が生まれるというサイクルによって金属量が増えるため、金属量の少ない星ほど宇宙の初期の時代に生まれたと考えられるからだ。
米・マサチューセッツ工科大学のAnirudh Chitiさんたちの研究チームは、きょしちょう座IIがさらに古い星々を含んでいるかどうかを調べるため、オーストラリア・サイディングスプリング天文台のスカイマッパー望遠鏡できょしちょう座IIの多色観測を行い、この銀河の中心から遠く離れた位置にある金属量の少ない星を探した。その結果、きょしちょう座IIの中心部にある既知の古い星々とは別に、中心から遠く離れた位置にある金属欠乏星を9個発見した。この結果は、超低輝度矮小銀河にも大きく広がったダークマターハローが存在しうることを示す初の証拠だ。
「これほど遠くの星を重力で束縛しているということは、きょしちょう座IIはこれまで考えられていたよりもはるかに重いことになります。宇宙で最初に生まれた他の『第一世代』の銀河も、こうした広がったハローを持つのかもしれません」(Chitiさん)。
またChitiさんたちは、チリ・ラスカンパナス天文台のマゼラン望遠鏡でもきょしちょう座IIの観測を行い、銀河内の相対的な金属量の違いを調べた。すると、この銀河の外縁部にある星は中心部の星に比べて金属量が約1/3しかなく、より古いことがわかった。古い銀河の外縁部と中心部で化学的な違いが見られたのはこれが初めてだ。
この違いを生んだ原因として考えられる説の一つは、初期宇宙でも銀河の衝突合体が起こっていたというものだ。第一世代に近い銀河同士が衝突し、大きくやや新しい方の銀河が、小さくてやや古い方の銀河を飲み込んで、その星々を外側にまき散らしたのかもしれない。こうした銀河の「共食い現象」は宇宙の歴史の中で常に起こっているが、初期宇宙の銀河でも起こっていたかどうかははっきりしていなかった。「きょしちょう座IIは、やがては天の川銀河に容赦なく飲み込まれますが、この銀河自身も共食いの歴史を経験していたのかもしれません」(同大学 Anna Frebelさん)。
研究チームはさらに古く、銀河中心からより離れた星が見つかることを期待して、天の川銀河の周りにある他の超低輝度矮小銀河も同じ手法で観測することにしている。「このような古い星を外側に持つ銀河はもっとたくさんあり、もしかしたら全ての矮小銀河にこのような星があるかもしれません」(Frebelさん)。
〈参照〉
- MIT:Astronomers detect extended dark matter halo around ancient dwarf galaxy
- Nature Astronomy:An extended halo around an ancient dwarf galaxy 論文
〈関連リンク〉
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