明滅オーロラとともに起こるオゾン破壊
【2021年7月20日 名古屋大学】
地球を取り巻く磁気圏は地球表面の環境や人間の活動影響を与えており、観測と理論の両面からその研究が進められている。なかでも宇宙嵐などに伴って発生する電磁波の一種で、音声信号に変換すると鳥が鳴いているように聞こえることから「宇宙のさえずり」とも呼ばれるコーラス波動は、宇宙空間の電子に作用して様々な現象を引き起こす。
コーラス波動に伴って数秒周期で明滅する「明滅オーロラ(脈動オーロラ)」が発生するほか、地球を囲む放射線帯(バン・アレン帯)から高いエネルギーを持つ電子が運ばれてくる。この電子は人工衛星の故障にもつながることから「キラー電子」と呼ばれる。さらに、ジオスペース探査衛星「あらせ」と地上観測との連携により、キラー電子が中層大気のオゾンを破壊することも確認された。
この観測を実施した東海国立大学機構 名古屋大学宇宙地球環境研究所の三好由純さんたちの研究グループは、これまでは主にシミュレーションからコーラス波動のふるまいを分析してきた(参照:「脈動オーロラの光とともにキラー電子が降ってくる」)。
観測は2016年12月に打ち上げられた「あらせ」が科学観測を開始した直後の2017年3月末に実施された。このとき、太陽の様子から大規模な宇宙嵐が発生することが予想されていたため、ノルウェーのレーダー観測(EISCAT)や北欧のオーロラ光学観測も準備が進められた。
予測されていた宇宙嵐は3月27日に発生し、地球上空約3万kmを飛ぶ「あらせ」が、コーラス波動とともに高エネルギーの電子が増えるのをとらえた。また、EISCATのデータ分析から、バン・アレン帯の電子が地表から高度60km付近まで降りてきていたことがわかった。これはオーロラが光る高度(100km付近)より低く、中間圏の下部にあたる。
分析どおりにキラー電子が降りてきた場合のオゾンへの影響をシミュレーションで調べたところ、高度約80km付近ではオゾンが10%以上減少することが明らかになった。紫外線を遮断するなどの役割を果たすオゾン層は高度10~50kmとさらに低いところにあるため、キラー電子によって顕著な影響を受けているわけではない。だが、高層のオゾンはたとえ元々の濃度が低くても温度の維持などに大きく関わっているため、今回確認されたような中間圏オゾンの破壊は気候変化にも影響を及ぼす可能性がある。
宇宙から降りてくる荷電粒子に伴うオゾンの破壊要因としては、太陽から飛来する高エネルギー粒子が知られていたが、この粒子が中層大気まで降りてくる頻度はあまり高くない。一方、今回確認されたコーラス波動によるオゾンの破壊は、それと比べて無視できない度合いの可能性がある。キラー電子が降りてくる頻度を調べるためにさらなる研究を重ねるとともに、範囲を局所的に限るのではなく全球大気モデルを使ったシミュレーションにより、オゾン破壊が中層大気に与える影響を評価することが待たれる。
〈参照〉
- 名古屋大学:明滅オーロラとともに起こるオゾン破壊~宇宙からの高エネルギー電子が大気に及ぼす影響を実証~
- JAXA宇宙科学研究所:脈動オーロラとともに起こる中間圏オゾンの破壊 ─「あらせ」衛星が明らかにした放射線帯電子が地球大気に及ぼす影響 ─
- Nature Scientific Reports:Penetration of MeV electrons into the mesosphere accompanying pulsating aurorae 論文
〈関連リンク〉
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