脈動オーロラの光とともにキラー電子が降ってくる
【2020年11月19日 JAXA】
太陽風などによって地球の磁気圏に変化が生じると、地上ではオーロラが発生する。オーロラにはいくつかのタイプがあるが、いろいろな大きさの淡い光が様々な周期で明滅を繰り返す「脈動オーロラ」は、JAXAの小型高機能衛星「れいめい(INDEX)」やジオスペース探査衛星「あらせ(ERG)」の観測から「コーラス波動」によって起こることがわかっている。このコーラス波動は地球周辺の希薄なプラズマが分布する領域を伝わる電波であり、音声信号に変換すると鳥が鳴いているように聞こえることから「宇宙のさえずり」とも呼ばれる。
名古屋大学宇宙地球環境研究所の三好由純さんたちの研究グループは宇宙空間のコーラス波動と電子との相互作用をシミュレーションで計算し、数十万個を超える数の電子の軌跡を追跡して、電子のエネルギーや降ってくるタイミングを特定するという研究を行った。
シミュレーションでは、宇宙空間で発生した電波の周波数の変化と、そのときの脈動オーロラを起こす10keV(キロ電子ボルト、エネルギーの単位)の電子、その200倍高いエネルギーを持つ2000keVの電子の変化を検証した。この高エネルギー電子は人工衛星を故障させる危ない存在であるため「キラー電子」と呼ばれ、キラー電子が1秒以内の短い時間で宇宙から降ってくる「マイクロバースト」という現象が起こっている。
5秒間に相当するシミュレーションの中で、脈動オーロラを起こす10keVのエネルギーの電子は2回ほど数が増え、その一つ一つで電子の数が3回ほど変調した。これは3秒ごとにオーロラが明滅し、1秒間に3回ほどオーロラが瞬くことに対応する。一方2000keVのキラー電子の場合は、短い間隔で電子の数が3回増える現象が計2回起こった。この一つ一つの電子の数が増えているのがマイクロバーストだ。
脈動オーロラとマイクロバーストの関係を明らかにするため、降下電子の時間とエネルギーについてもシミュレーションしたところ、エネルギーが高いところから低いところまで、筋としてつながっていることが明らかになった。これは、脈動オーロラとマイクロバーストが一連の現象であり、数keVのオーロラ電子も数千keVのキラー電子もほぼ同時に地球大気へと降り込んでいることを示している。
今回のシミュレーションの結果は、「れいめい」が観測した脈動オーロラを起こす降下電子の特徴を再現するものだ。また、キラー電子に対応する高エネルギー電子はNASAの人工衛星「SAMPEX」衛星が観測したマイクロバーストの特徴を再現しており、今回のシミュレーションの結果と理論を裏付けている。
まったく異なるエネルギーの電子が同時に降ってくる理由については、以下のような理論が考えられている。
コーラスは、赤道面では比較的低いエネルギーの電子に、緯度が高い場所では高いエネルギーの電子に影響を及ぼしやすいという性質がある。また、コーラスが磁力線に沿って赤道面から緯度が高いところに伝わりやすいという特性も持つ。これらの特性をあわせると、
- コーラスが宇宙空間で生まれると、まず10keVくらいの電子を変調させ、変調された電子が大気に降り込んで脈動オーロラが起こる
- コーラスが高緯度へと伝搬し、よりエネルギーが高い電子を変調させる
- 変調された電子が大気に降り込んでマイクロバーストが起こる
という過程が考えられる。
この結果は、脈動オーロラが起こっているときにその下の中間圏(高度60km付近)でオゾンの破壊が同時に起こっている可能性が高いことを示すものだ。中間圏オゾンの変化は気候変化にも影響を及ぼすことが指摘されている重要な過程であり、宇宙からの電子の降り込みと地球大気との関係の理解にもつながる成果である。
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〈参照〉
- JAXA:オーロラの明滅とともに、宇宙からキラー電子が降ってくる
- Geophysical Research Letters:Relativistic Electron Microbursts as High‐Energy Tail of Pulsating Aurora Electrons 論文
〈関連リンク〉
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