フラッシュオーロラから宇宙のコーラス電磁波の特性を解明
【2022年5月18日 金沢大学】
磁力線に沿って電子がらせん運動することによって生じるコーラス電磁波は、地球周辺のプラズマを加速させる働きを持つ。さらに、プラズマを地上へ降下させて、わずか数百ミリ秒しか発光しない雲状のフラッシュオーロラなど特殊なオーロラ現象を発生させる。
コーラス電磁波の周波数によってこの電磁波が影響を与える電子エネルギーは異なるので、宇宙の発生域におけるコーラス電磁波の周波数分布を明らかにすることは、地球周辺のプラズマ環境を理解するうえで重要となる。しかし、コーラス電磁波は発生域から離れて伝搬するため、発生域のコーラス電磁波と発生域から離れた位置のものとを区別することは、科学衛星による観測だけでは困難だった。
金沢大学の尾﨑光紀さんたちの研究チームは、1秒間に100枚撮影できるハイスピードカメラによってとらえた暗いフラッシュオーロラの時間変化を、「レベルセット法」と呼ばれる輪郭形状進化を追跡できる画像処理法を用いて詳細に調べた。この手法は医用画像処理、防犯カメラ処理などにも使われているが、画像解析が複雑なため処理時間が莫大になり、ハイスピードカメラ画像への適用が困難だった。尾﨑さんたちはレベルセット法の高速化を図り、従来よりも雑音の影響を受けることなくオーロラを解析できるようにした。
画像解析の結果、水面に滴る水滴が作る波紋のように徐々に水平方向の大きさを拡大させながら、最大サイズに広がった後に徐々に縮小するような発光変化を示すオーロラでは、オーロラの縮小する時間が拡大する時間よりも平均で1.7倍も長くなることが明らかになった。
この現象の要因を明らかにするために研究チームは、電離圏でのフラッシュオーロラ発光がどのように変化するか、宇宙のコーラス電磁波の特性を変えながら数値計算を行った。すると、フラッシュオーロラの縮小時間が拡大時間よりも長くなるには、宇宙の発生域で低周波コーラスと高周波コーラスの周波数分布が連続している必要があることがわかった。高周波コーラスの影響を受けて、発生域から地球までの移動速度が遅くなる低いエネルギーの電子が、オーロラの縮小する時間を決めていたということを示す結果である。
コーラス電磁波は、地球と同じように磁場を持つ木星や土星などでも観測されているが、磁場を持つ水星ではまだ観測されていない。水星に向け航行中の磁気圏探査機「みお」の観測に期待がかかる。また、地球周辺宇宙ではジオスペース探査衛星「あらせ」がコーラス電磁波の観測を行っている。地球と水星のコーラス電磁波を比較することにより、様々な惑星でのコーラス電磁波による電子の加速やオーロラ現象の物理過程を解明する手がかりが得られるかもしれない。
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