今年5月に日本で見られたオーロラを発生させた太陽嵐を電波観測

このエントリーをはてなブックマークに追加
今年5月に日本などで見られたオーロラを発生させた太陽嵐の伝搬がシミュレーションで再現され、複数の太陽嵐が隣接・合体した高密度領域が各所に形成された可能性が示された。大規模太陽嵐の予測に関わる重要な成果だ。

【2024年10月4日 名古屋大学

今年5月上旬、太陽活動が非常に活発となり、大規模な太陽フレアが連続発生した。これに伴って生じた太陽嵐が地球に到来し、磁気嵐が発生した結果、5月11日に日本を含めた世界各地でオーロラが見られた。また、この期間に人工衛星を用いた測位の誤差増大や短波通信に障害があったことも報告されていて、太陽嵐による地磁気の攪乱との関連が調べられている。

名古屋大学宇宙地球環境研究所では国内3か所に設置された大型電波望遠鏡群を用いて、太陽嵐を検出するための地上電波観測を行っている。プラズマの塊である太陽嵐は電波を散乱する性質があるので、太陽系外天体の電波観測中に太陽嵐が通過すると天体からの電波が散乱され、電波強度が激しく揺らぐ。この散乱を観測することで太陽嵐を検出することができる。

大型電波望遠鏡と太陽嵐検出の模式図
(左)名古屋大学で運用する大型電波望遠鏡(愛知県豊川市)、(右)電波天体の地上観測により地球へ向かう太陽嵐を検出する模式図(提供:名古屋大学リリース、以下同)

名古屋大学の岩井一正さんたちの研究チームは電波観測のデータを解析し、太陽嵐が地球に到達する直前の5月10日に非常に多くの天体から大振幅の散乱反応(下図の赤色)が得られていたことを見出した。

電波の散乱現象の変化
電波の散乱現象の変化。(左)4月29日の観測結果、(右)5月10日の観測結果。(+印)観測天体の方角、(菱形内)散乱現象が検出された天体の位置。(菱形の色)青、緑、赤になるにつれて大きな振幅の散乱現象が検出されたことを意味する

観測された太陽嵐の伝搬を磁気流体シミュレーションを用いて再現したところ、電波の散乱が検出された方向が、観測時間中に太陽嵐が通過していたと考えられる領域と概ね一致した。また、この期間に複数の太陽嵐が発生し、それらが隣接・合体することで高密度な領域が宇宙空間の至る所に形成されていた可能性が示唆された。高密度な領域は特に電波を散乱しやすく、強い電波散乱が様々な方角で観測された事実を説明できる。

シミュレーションで再現された太陽嵐の伝搬
磁気流体シミュレーションで再現された、5月11日にオーロラを引き起こした太陽嵐の伝搬。太陽系を北から見た図で中心が太陽、右の白丸が地球の位置。色は太陽風の速度に対応し、赤いほど速い

今回の研究により、5月10日に観測された顕著な電波の散乱現象が、オーロラの原因となったとみられる太陽嵐群によるものである可能性が示された。複数の太陽嵐が複合して大規模に発達する現象は地球への影響も大きくなる可能性があり、そのような現象による影響が事前に観測でとらえられた意義は大きい。今後、太陽嵐の電波観測結果をリアルタイムに解析して、その結果を再現できるようなシミュレーションを行うことで、同様の現象を地球への到来前に予測できるかもしれない。

一方で、今回観測された顕著な電波の散乱現象の方角は、シミュレーションから予想される太陽嵐の方角と完全には一致していなかった。その違いの解消には、より多くの観測データに加えて、シミュレーションに使ったモデルの改良も必要と考えられ、今後の研究が期待される。

関連記事