宇宙電波の“さえずり”が短時間で電子を加速した痕跡を発見

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ジオスペース探査衛星「あらせ」の観測データから、地球周辺の宇宙空間で「コーラス」と呼ばれるプラズマ波が1秒以下の時間スケールで電子を加速している痕跡が見つかった。

【2025年1月21日 京都大学

地球周辺の宇宙空間を満たすプラズマは密度が非常に低く、ある電子が他の電子やイオンと衝突してエネルギーを得たり失ったりすることはない。しかし一方で、地球の磁気圏内には超高層大気起源の1電子ボルト以下の低エネルギーの電子から、放射線帯「バン・アレン帯」内の1メガ電子ボルト以上の高エネルギーの電子まで存在し、その数や存在する領域も大きく変動する。この変動を理解するためには、衝突に依らない形でのエネルギーのやりとりや運動の変化を考える必要がある。

理論研究では、「コーラス(宇宙の鳥のさえずり)」と呼ばれるプラズマ波から、非常に短い時間のうちに電子がエネルギーを受け取って、1秒以下の時間スケールで急速に加速される過程が提案されている。この理論に対して観測データをもとにした実証が必要とされてきたが、観測機器の性能が十分ではないために従来は難しかった。

京都大学生存圏研究所の栗田怜さんたちの研究チームは、JAXAのジオスペース探査衛星「あらせ」が取得した地球周辺環境の高品質の観測データを、新しい解析手法で分析した。「あらせ」は広いエネルギー範囲の粒子の計測や、広い周波数範囲の電波を精密に測定する能力があり、そのデータから理論を検証しようという試みだ。

研究成果のイメージイラスト
今回の研究成果のイメージイラスト(提供:ERG science team)

分析の結果、コーラスの出現に伴って電子数が1秒以下の時間スケールで変動している様子が見出された。コーラスによって1秒以下の時間スケールで電子が加速されている痕跡を、世界で初めて発見した研究結果となる。この短い時間スケールは、長年広く取り扱われてきた準線型理論が提唱する時間スケール(数分から数十分)に比べて非常に短く、過去に「あらせ」の観測データの解析から得られた結果(30秒以下)よりもさらに短い電子加速現象である。

コーラスは木星や土星といった放射線帯を持つ惑星周辺にも存在する波であり、今回見つかった電子加速はこれらの惑星周辺でも起こっていると考えられる。今回の成果は、地球を含む惑星周辺に存在する高エネルギー電子の生成過程について、その解明の一端を担うものとなりそうだ。

「理論的に予測されている現象が実際に宇宙空間で起こっていることを実証でき、たいへん感慨深いです。今回見出されたコーラスによる短時間での電子加速が、地球を含むコーラスが観測される天体周辺でどれほどの影響を及ぼすかをさらに追求し、宇宙環境の理解を深めていきたいと考えています。また、宇宙空間に存在する高エネルギー電子は人工衛星の障害の一因であるため、加速過程の理解は安全な宇宙利用に寄与するとも期待されます」(栗田さん)。