地球周辺空間は電波を通じてダイナミックに変動
【2021年12月17日 JAXA宇宙科学研究所】
地球周辺の宇宙空間(ジオスペース)には様々なエネルギー状態を持つイオンや電子からなる領域が折り重なっている。これらは非常に希薄なので、高いエネルギーを持つ粒子が他のイオンや電子に衝突してエネルギーを受け渡すことは、ほとんど起こらないと考えられる。それにもかかわらず、各領域では構成粒子が大幅な増減を繰り返したり、領域の形状が変化したりするなど、ダイナミックに変動している。
つまり、ジオスペースの各領域では粒子の衝突以外の形でエネルギーが輸送されていることになる。その候補として挙げられているのが電波だ。
ジオスペース探査衛星「あらせ」は低エネルギーから超高エネルギーまで様々な粒子の状態をとらえる観測機器を備え、電波についても周波数に応じた多数の受信機を搭載している。JAXAの浅村和史さんたちの研究チームは「あらせ」のこの特性を活かし、イオンと電波の間のエネルギーのやり取りをとらえることに成功した。
電磁波の一種である電波は、電界と磁界が相互に作用しながら伝わる。電気を帯びた粒子であるイオンは電界の影響を受け、運動している方向に応じて、電波からエネルギーを受け取って加速することもあれば、エネルギーを渡して減速することもある。このとき粒子がまんべんなく分布していれば、加速と減速が同じだけ発生するのでエネルギーの収支は釣り合うが、粒子の運動方向に偏りがあると、その領域全体で電波からエネルギーを受け取ったり、逆にエネルギーを渡したりすることになる。浅村さんたちはこうして電波とイオンがやり取りするエネルギー量を明らかにする「波動粒子相互作用解析」と呼ばれる手法を開発した。
「あらせ」が2018年2月10日(世界時)に観測したデータでは、約11Hzの「磁気音波」と呼ばれる電波と約2Hzの「電磁イオンサイクロトロン波(EMIC波)」と呼ばれる電波が強くとらえられると同時に、エネルギーの低い水素イオンの流量が増えていた。
この観測データを波動粒子相互作用解析にかけたところ、磁気音波は低エネルギーのイオンにエネルギーを与え、そのイオンがEMIC波にエネルギーを渡していることが明らかになった。磁気音波は高温イオンによって生成されることがわかっている。つまり、衝突によって直接渡すことのできないエネルギーが、磁気音波という電波を介して、イオンからイオンへと輸送されたことになる。
また、EMIC波は超高エネルギー電子を散乱する性質をもつことから、超高エネルギー粒子が補足されているバン・アレン帯の変動に寄与することがわかっているほか、プロトンオーロラと呼ばれるオーロラの発生にも関わっていることが知られている。こうした現象に、高温イオンに端を発する、電波を通じたエネルギーの輸送が作用していることが今回の研究で明らかになった。
今後、様々な種類の電波とイオン・電子への適用が可能になれば、宇宙空間におけるエネルギーの分配や循環過程の理解につながると期待される。
〈参照〉
- JAXA宇宙科学研究所:宇宙空間のイオンと電子は電波を介してエネルギーをやりとりする
- 九州工業大学:宇宙では、波から波へのエネルギー輸送をイオンが中継
- Physical Review Letters:Cross-Energy Couplings from Magnetosonic Waves to Electromagnetic Ion Cyclotron Waves through Cold Ion Heating inside the Plasmasphere 論文
〈関連リンク〉
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