宇宙プラズマから電波が発生する瞬間を特定
高度400kmから約10万kmの地球周囲の宇宙空間(ジオスペース)にはプラズマが存在している。ジオスペースのプラズマからは様々な電波が発生しており、プラズマの分布やエネルギーを変えてしまうことが知られている。特に周波数1Hz程度の「電磁イオンサイクロトロン波動」と呼ばれる電波は、放射線(放射線帯の電子)の分布を変えたりオーロラの発生に寄与したりすると考えられている。しかし、プラズマの中から電波が発生する瞬間が観測されたことはこれまでなかった。
名古屋大学の小路真史さん、三好由純さんたちの国際共同研究グループは、電波とプラズマの位相関係からプラズマ分布の揺らぎを特定し、相互のエネルギー授受を求める新しい解析手法を開発した。この解析手法を用いて、NASAの磁気圏観測衛星「テミス」のデータを詳細に分析した結果、電磁イオンサイクロトロン波動が発生する瞬間の特定に成功した。
さらに、電波が発生しているときには、その場所に存在するイオン群の中に数秒間だけ存在する、左右非対称な穴が作り出されることを発見した。また、穴の存在によってイオン群のエネルギーが電波を生み出していることを実証した。
この手法は、今後宇宙プラズマの中で発生している様々な種類の電波の分析に応用されていくことが考えられる。とくに昨年12月に打ち上げられたJAXAのジオスペース探査衛星「あらせ」の観測データに適用することで、明滅するオーロラを作り出す起源といわれる周波数数千Hzの謎の宇宙電波「ホイッスラー波動・コーラス」が生まれる様子が解明されると期待される。
〈参照〉
- 名古屋大学:宇宙のプラズマから電波が生まれる瞬間の特定に成功
- Geophysical Research Letters:Ion hole formation and nonlinear generation of Electromagnetic Ion Cyclotron waves: THEMIS observation 論文
〈関連リンク〉
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