オーロラを発生させる高エネルギー電子が大気圏に降り注ぐ仕組みを解明
【2019年12月6日 国立極地研究所/データサイエンス共同利用基盤施設】
北極や南極の空を美しく彩るオーロラは、高度約100~300kmに現れる大気の発光現象であり、地球の周りの宇宙空間から磁力線に沿って大気圏に降り込んでくる約0.1~数十キロ電子ボルト(keV)のエネルギーを持つ電子が極域大気に衝突することによって発生する。
さらに高い数百keV以上のエネルギーを持つ電子は中間圏(高度約50~90km)まで侵入し、窒素酸化物や水素酸化物などの分子を増加させる。これらの分子は中間圏のオゾンを破壊するとともに、下降流に乗ってオゾン層を含む成層圏(高度約10~50km)まで運ばれ、オゾンの破壊を誘発すると考えられている。オゾン層は大気の熱バランスを保つ働きをしているため、高エネルギー電子の降り込みによる成層圏オゾンの減少が地球規模の気候変動に影響を与える可能性も指摘されている。
これまでの研究によると、宇宙空間で生じるいくつかの電磁波が高エネルギー電子と相互作用し、電子を散乱して極域大気に降り込ませることがわかっている。たとえば「コーラス」と呼ばれる周波数が数kHzの電磁波は、エネルギー数十keVの電子と共鳴し、数秒周期で明滅を繰り返す「脈動オーロラ」を引き起こす。また、数Hzの周波数帯の「電磁イオンサイクロトロン波」は、数百~数千keV前後の高エネルギー電子の降り込みの原因となる。
国立極地研究所の田中良昌さんたちの研究グループは、JAXAのジオスペース探査衛星「あらせ」と、南極・昭和基地に設置された大気レーダー「PANSY」、北極圏のノルウェーにある大気レーダー「MAARSY」による同時観測を実施し、宇宙空間の電磁波と極域中間圏の応答を直接比較する研究を行った。PANSYとMAARSYは上空に向けて強力な電波を発射し、大気中で散乱されて戻ってきたわずかな電波(反射エコー)を検出して大気の動きや電子密度を観測することができる。
同時観測の結果、「あらせ」が宇宙空間で観測した電磁波と、両大気レーダーがとらえた中間圏からの強い反射エコー、つまり高エネルギー電子の降り込みが同時に発生しており、よく似た時間変動をしていることが明らかになった。また、同時刻にアイスランドでは脈動オーロラが観測されていた。これらの現象の高い相関は、宇宙空間で生じた電磁波が、北極でオーロラを発生させた数十keV以下のエネルギーの電子だけでなく、はるかに高いエネルギー(数百~数千keV)の電子を南北両極の上空深くまで降り込ませ、大気を電離した証拠といえる。
これらの現象は、太陽から吹いている高速太陽風の前面が地球に到達した直後に、明け方の時間帯で発生していた。高速太陽風の到来によって地球周辺の地磁気の圧縮とオーロラ爆発が発生し、地磁気の圧縮は電磁イオンサイクロトロン波の成長を、オーロラ爆発は宇宙空間夜側から熱い電子を朝側に運んでコーラスを引き起こしたとみられる。これらの電磁波が宇宙空間に存在する高エネルギー電子と相互作用して、南北両極の大気に電子を落とし、上層で脈動オーロラ、下層で中間圏の大気電離を生じさせたと考えられる
これまで、数百keV以上の高エネルギー電子の地球大気への降り込みは、激しいオーロラ爆発が頻発する磁気嵐と呼ばれる大規模なイベントのときに発生すると考えられてきた。しかし、今回の観測・研究から、高速太陽風の到来や単発のオーロラ爆発といった比較的小規模なイベントのときにも、高エネルギー電子が極域中間圏まで降り込んでいることが示された。オーロラ爆発は平均して1日に数回と頻繁に発生するため、地球の大気に大きなインパクトを与える可能性がある。今後は、小規模なオーロラ現象がどのくらい高エネルギー電子を降り込ませ、地球の気候変動に影響を与えるのかといったことを定量的に調査することが重要となる。
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〈参照〉
- 国立極地研究所:オーロラを発生させる高エネルギー電子が大気圏に降り注ぐ仕組みを解明~成層圏オゾンの破壊を誘発する原因の謎解きが一歩前進~
- Journal of Geophysical Research - Space Physics:Direct Comparison Between Magnetospheric Plasma Waves and Polar Mesosphere Winter Echoes in Both Hemispheres 論文
〈関連リンク〉
- ジオスペース探査衛星「あらせ」
- PANSY
- MAARSY
- アストロアーツ 天体写真ギャラリー:オーロラ
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