地球近傍宇宙のコーラス波動と突発発光オーロラの同時観測に成功
【2019年1月23日 情報通信研究機構/JAXA宇宙科学研究所】
「ジオスペース」と呼ばれる地球周辺の宇宙空間には、自然現象で生じる放射線が飛び交っており、人工衛星に影響を及ぼしたり宇宙飛行士の被曝という懸念をもたらしたりする。ジオスペースの放射線は、磁力線に沿った電子のらせん運動に伴う電磁波である「電磁波コーラス」と高エネルギー電子とが共鳴する「波動粒子相互作用」と呼ばれる現象で生じることが知られている。
波動粒子相互作用はまた、高エネルギー電子を発生域から地球の大気中へ降下させ、特殊なオーロラを発生させる。さらに、磁力線に沿って大気中に降下した高エネルギー電子は、地球大気組成に変化をもたらすことも示唆されている。
このように、波動粒子相互作用の発生域の詳細を明らかにすることは、宇宙電磁環境や地球大気組成への影響を知る手がかりとなり、盛んに研究され続けている。しかし、発生域の形状変化など、よくわかっていないことも多い。
金沢大学の尾崎光紀さん、名古屋大学宇宙地球環境研究所の三好由純さんたちの国際研究グループは、波動粒子相互作用を探査するJAXAのジオスペース探査衛星「あらせ」と、北半球を中心に構築した地上観測網「PWING(study of dynamical variation of Particles and Waves in the INner magnetosphere using Ground-based network observations)」により、波動粒子相互作用の研究を行っている。両者が協調することで、「あらせ」でコーラス波動の詳細をとらえながら、地上から関連オーロラ現象をとらえることが可能となり、世界で初めて10ミリ秒という高時間分解能での観測が実現した。
この協調観測で、2017年3月30日に発生したコーラス波動を「あらせ」がとらえ、そのコーラス波動による波動粒子相互作用が引き起こした数百ミリ秒の突発発光オーロラを「あらせ」から3万km離れた地上で同時にとらえることに世界で初めて成功した。コーラス波動とオーロラの明るさ、形状変化には一致が見られ、突発発光オーロラがコーラス波動に伴う波動粒子相互作用発生域の形状変化を表すディスプレイになることが明らかになった。
突発発光オーロラを通じた波動粒子相互作用発生域の可視化によって、同領域が地磁気的な南北方向に非対称性を強く示すことが世界で初めて示された。この変化は、磁力線を横切る方向の波動粒子相互作用発生域の形状変化という、これまで知られていなかった現象を明らかにしたものだ。今後、「あらせ」とPWINGの協調による類似の現象の観測と解析により、普遍的な特徴の解明につながることが期待される。
関連商品
〈参照〉
- 情報通信研究機構(NICT):世界初!地球近傍の宇宙で発生するプラズマと電磁波の相互作用発生域の可視化に成功~最新の科学衛星「あらせ」と極北のオーロラ観測から宇宙の物理現象を理解~
- JAXA宇宙科学研究所:宇宙空間のコーラス、オーロラとして出現
- Nature Communications:Visualization of rapid electron precipitation via chorus element wave-particle interactions 論文
〈関連リンク〉
- ジオスペース探査衛星「あらせ」(ERG)
- PWING
- アストロアーツ 天体写真ギャラリー:オーロラ
関連記事
- 2024/12/13 日本で撮影された青い低緯度オーロラの出現場所を推定
- 2024/11/06 今年5月に日本で見られた低緯度オーロラは高高度、色の謎も解明
- 2024/10/04 今年5月に日本で見られたオーロラを発生させた太陽嵐を電波観測
- 2024/06/28 2つの特殊なオーロラの発生要因が明らかに
- 2024/05/13 日本など各地で低緯度オーロラを観測
- 2023/05/02 日本の歴史資料から読み解く太陽活動の周期性
- 2022/12/02 観測衛星「ジオテイル」、30年のミッションを終了
- 2022/06/08 深層学習でオーロラの出現を自動検知
- 2022/05/18 フラッシュオーロラから宇宙のコーラス電磁波の特性を解明
- 2021/12/24 1957-8年、太陽活動が観測史上最大級の時期のオーロラ国内観測記録
- 2021/09/13 過去3000年のオーロラ出現地域を計算、文献とも一致
- 2021/08/13 木星の「熱すぎる高層大気」の原因はオーロラだった
- 2021/08/03 ガニメデの大気に水蒸気が存在する証拠を検出
- 2021/07/20 明滅オーロラとともに起こるオゾン破壊
- 2021/07/16 木星の明滅するX線オーロラのメカニズム
- 2021/07/16 宇宙空間で電波を生み出す陽子の集団を発見
- 2021/07/13 宇宙環境を知る手がかり、突発発光オーロラの形状変化を再現
- 2021/01/25 オーロラ粒子の加速は高度3万km以上から始まっていた
- 2020/11/19 脈動オーロラの光とともにキラー電子が降ってくる
- 2020/09/28 彗星でも「オーロラ」が発生する