大減光の影響が続くベテルギウス

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2019年に起こったベテルギウスの大幅な減光は大規模な質量放出によるものだという説が新たな観測データから示された。質量放出の影響は現在も続いている。

【2022年8月16日 ハーバード・スミソニアン天体物理学センター

米・ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのAndrea Dupreeさんたちの研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)や地上望遠鏡・宇宙探査機のデータを解析し、2019年から2020年にかけて起こったオリオン座の1等星ベテルギウスの大幅な減光(参照:「2等星に陥落!ベテルギウス減光のゆくえ」)が、星の表面から大量の物質が宇宙空間に放出された表面質量放出(Surface Mass Ejection; SME)によるものだと結論した。

ごくありふれた恒星である太陽でも、コロナの一部が宇宙空間に放出される「コロナ質量放出(Coronal Mass Ejection; CME)」という現象がしばしば起こる。だが、2019年のベテルギウスのSMEでは、太陽のCMEで放出される物質の4000億倍にもなる莫大な量の物質が放出されたと推定されている。恒星の表面物質がこれほど大規模に宇宙空間へ放出される現象はこれまで観測されたことがないため、SMEはCMEとは本質的に異なる現象かもしれない。

ベテルギウスでの表面質量放出
(上)ベテルギウスで起こった表面質量放出のイラスト。2019年1~3月に大規模な質量放出が起こり、光球の物質が宇宙空間に飛び出した。放出された物質は冷えて塵の雲ができ、これが星の光を遮って大幅な減光が見られた。元の明るさに戻った後もベテルギウスの光球は揺れ動いている。(下)青色の破線はこれまで約200年間続いてきたベテルギウスの約400日周期の脈動による変光を表した曲線。赤色の線が実際の光度変化。大減光が起こった後、光度は回復したものの、変光周期は乱れたままになっている。画像クリックで表示拡大(提供:NASA, ESA, Elizabeth Wheatley (STScI))

現在のベテルギウスは、2019年の破局的な大変動からゆっくり回復しつつある途中だ。「ベテルギウスは現在も通常とは違った活動を続けていて、星の内部で一種の『反動』が起こっている状態です」(Dupreeさん)。

Dupreeさんたちは2020年の段階で、大減光の原因は大規模な質量放出によるものだという説を唱えていた(参照:「ベテルギウスの減光は大量の物質放出が原因」)。今回Dupreeさんたちは、HSTに加えてスペイン領カナリア諸島の「STELLA」、米・アリゾナ州の「FLWO」、NASAの太陽観測衛星「STEREO-A」、さらにアメリカ変光星観測者協会(AAVSO)の観測データなど、大減光前後のベテルギウスを観測した様々な望遠鏡・探査機などのデータを集約して解析し、この大規模な変動のシナリオを作り上げようと試みた。

「私たちはこれまで、恒星の表面で起こる巨大な質量放出を見たことがありませんでした。私たちの目の前で、まだ完全に理解できていない現象が続いています。これは完全に新しい現象ですが、HSTを使って直接観測し、表面の詳細を分解できます。私たちは恒星進化の過程をリアルタイムで観察しているのです」(Dupreeさん)。

2019年の巨大な質量放出はおそらく、幅が160万kmを超える巨大な対流プリュームが星の深部から上昇して起こったとDupreeさんたちは考えている。この現象が衝撃波と星全体の脈動を引き起こし、ベテルギウスの光球の一部が宇宙に放出された。放出された光球の物質は月の質量の数倍で、これが冷えて塵の雲ができた。また、星の表面には大きな低温の領域が残された。この塵の雲が星からの光を遮り、2019年の終わりから数か月も続いた大減光として観測されたというのだ。

興味深いことに、これまで約200年間にわたってベテルギウスで観測されてきた約400日周期の脈動も、現在は止まっている。これも質量放出の激しさを物語るものだ。

ベテルギウスの内部では、星を形づくるガスが細かく分かれて対流する「対流セル」という状態になっていて、これが規則的な脈動を引き起こしていると考えられるが、現在は不安定な洗濯機の洗濯槽のように対流セルが動き回っているのかもしれない、とDupreeさんたちは考えている。スペクトル観測によると、ベテルギウスの外層大気は通常の状態に戻っているが、光球の表面は今もゼリーのように揺れ動いているようだ。

今後、NASAのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を使えば、ベテルギウスから離れつつある放出物質を赤外線で検出できるかもしれない。