火星に海があった有力な証拠
【2012年2月8日 ヨーロッパ宇宙機関】
ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の火星探査機「マーズエクスプレス」に搭載されているレーダーが、火星の北半球の低地で地下に氷のようなものがあることを発見した。かつて火星には海が存在したということの、強い証拠かもしれない。
火星の北半球は南半球と比較すると高度が低く、海岸線や三角州のような地形も見られることから、かつて海であったのではないかと言われている。一方で、鉱物分布の研究などからは否定的な意見も出ている。
ヨーロッパとアメリカの国際研究チームは、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の探査機「マーズエクスプレス」に搭載されている「MARSISレーダー」の2年以上に及ぶ北半球の観測結果を分析した。その結果、北半球の表面を低密度の物質が覆っていることがわかった。
研究を行った仏グルノーブル惑星科学・宇宙物理学研究所(IPAG)のJérémie Mouginot博士は「我々はこれを、氷に富んだ堆積物の沈殿物だと考えている。かつて海があった強力な証拠だと言えるだろう」と語っている。
MARSISレーダーを使うと、地表から60~80mまでにある物質の情報が得られる。どうやらこの深さには堆積物や氷が眠っているようだ。この堆積物は粒状で密度が低く、水によって噴出して運ばれてきたものと考えられる。
火星に海が存在していた時期については2つ考えられている。1つ目はおよそ40億年前、火星が温暖な気候だったときだ。もう1つは30億年前、おそらく地熱活動が強まったことで地下の氷が溶け、低地に流れ込んだときである。
この火星の歴史の中で後になってできた海は一時的なもので、100万年も存在できなかったのではないかと考えられている。海を構成していた水は氷に戻って地下に隠れるか、水蒸気になって少しずつ大気中に逃げてしまったのではないかと推測される。このため、火星に生命がいたとすれば、もっと長い時間水が存在していた可能性のある、火星の初期の頃だけかもしれない。
いずれにせよ今回の結果は火星にかつて海があった有力な証拠であり、火星の地形を作るうえで液体の水が果たした役割を示す証拠とも言えそうだ。これまでマーズエクスプレスは地形の画像や鉱物学的なデータ、大気測定などから海の存在を研究してきたが、地下のレーダー観測という新たなデータも加わり、「火星の海はどこに消えたのか」という謎にさらに迫れるかもしれない。